『悪霊』第1編

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-P216

リーザの世話を焼きながら、自分でもその傍へ並んで腰をかけた。ちょうどからだの明いたピョートルはすぐさまそのほうへ飛んで行って、早口に面白そうにしゃべり出した。この時ニコライは例のゆったりした足どりで、とうとうダーリヤの傍へ近寄った。ダーシ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP169-P192

て、だれでもそれに記入することができるって……」 大尉は急に言葉を切った。彼は何か困難な仕事でもした後のように、重々しく息をついていた。この慈善会云々は、やっぱりリプーチンの仕組んだ筋書によって、あらかじめ用意して来たものらしい。彼はまたいっ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP145-P168

た。「シャートフ、おい兄弟![#ここから2字下げ] われは来りぬ汝《な》がもとに 日の昇りしを告げんため もーゆーるがごときかがやきの 木々に……慄うを語るため わが目ざめしを(こん畜生!)小枝の下に わが目ーざーめしを語るため [#ここで字下げ終…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP121-P144

は真実を直視することを恐れないからね……リプーチンはさっき、バリケードでニコラスを防げとすすめたが、あれは馬鹿なのだ、リプーチンは。女というやつは、最も透徹した眼光すら欺くからね。もちろん、le bon Dieu(かの善良なる神様)は女を造るとき、相手…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP097-P120

「きみの話があんまり意外なもんだから……」とスチェパン氏はへどもどした調子でいった。「わたしはどうも本当にならんよ……」 「まあ、待ってください、待ってください」と、まるで相手の言葉も耳に入らないようなふうで、リプーチンはさえぎった。「まあ、こ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP073-P096

僅か五千ルーブリくらいしか彼の懐ろに入らなかった。そのわけは、ときどきクラブで大きな負け勝負をすることがあっても、その尻拭いをヴァルヴァーラ夫人に頼むのが恐ろしかったからで。こういうことをしまいにすっかり嗅ぎつけた時、ヴァルヴァーラ夫人は…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP049-P072

なった。知事は優しい、感じやすい人であったから、非常にばつの悪い思いをした。しかし、ここに面白いことは、ああいう処置を取った以上、彼もニコライが完全な判断力を持っているにもせよ、どんな気ちがいじみたことをやりだすかわからない人間だ、と考え…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP025-P048

もう見わけもなにもつかないくらいなありさまにして、浅ましくほうり出しているのを、通りすがりにふと見つけたような時、いったいどんな憂愁と憤懣に胸を掻きむしられることか! なんの、なんの! われわれの時代はこんなふうじゃなかった、われわれの努力…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP005-P024

殺されるも痕は得わかじ われらついに踏みぞ迷いぬ、いかがせん? こは悪霊のわれらを曠野《あらの》に導きて 四面八面《よもやも》に引き廻すらし ……………………………………………… 数や幾ばく、いずちへぞ追われ行くらん かく哀しげに歌うは何ゆえ? 家に棲む魔性を野辺…