『罪と罰』第2編
彼はからだじゅうおこりにでも襲われたような気持ちで、静かに階段をおりて行った。自分ではそれと意識しなかったけれど、張り切った力強い生命が波のように寄せて来て、その限りない偉大な新しい感覚が、彼の前進にみちあふれた。この感覚は、ひとたび死刑…
「酔ってるか酔ってねえか。わかったもんじゃねえ」と職人はつぶやいた。 「ほんとうになんの用なんですね?」そろそろ本気に腹を立てながら、庭番はまたもやどなりつけた。「何をいつまでもへばりついてるんだ?」 「警察へ行くのがこわくなったのかい?」…
識をひけらかしたかったんでしょう。それは大いに酌量《しゃくりょう》すべきことで、ぼくもべつにとがめ立てしません。ただぼくは今あなたがどんな人か、ちょっと知りたかっただけなんですよ。なぜといってね、おわかりでしょう。近ごろでは一般の福祉なる…
ーリニコフは顔をふり向けようともせずにたずねた。 「つかなかったとも、そのために気ちがいみたいにおこりだしたほどだよ。ことにぼくが一度ザミョートフをつれて来たときなど、そりゃたいへんだったぜ」 「ザミョートフを?……事務官を?……何のために?」…
ったか?」 ラヴィーザ・イヴァーノヴナは、気ぜわしない愛嬌《あいきょう》をふりまき、四方八方へ小腰をかがめながら、戸口まであとずさりして行った。ところが、ドアのところで、あけっ放しのすがすがしい顔に、ふさふさとしたみごとな亜麻色のほおひげを…
間に、何もかも思い出したのである! 最初の瞬間、彼は気がちがうのかと思った。恐ろしい悪寒《おかん》が全身を包んだ。もっともその悪寒は、まだ寝ているうちからおこっていた熱のせいでもある。ところが、今はふいに激しい発作《ほっさ》となって襲って来…