京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

破防法適用問題 公安・教団の意見陳述の要旨(1996年12月、『オウム法廷』2下巻)

公安調査庁の陳述要旨】
〈政治目的〉
 教団は今なお松本智津夫麻原彰晃)被告の政治思想の根幹をなす『ヴァジラヤーナ・サッチャ』『滅亡の日』などを宣伝・販売しており、政治目的に変わりがないのは明らかである。
 教団が提出した信徒らの陳述書は、記載内容を指示して一律に作成させたことを推認させるもので、信徒の真意が表明された書面とは到底認められない。
〈破壊活動〉
 松本サリン事件は松本被告の意思決定に基づき組織的に実行されたもので、教団幹部や多数の一般信徒、資金を動員・活用して武装化を推進した事実は、起訴された幹部らの公判供述によって明白である。
 にもかかわらず、教団は一連の破壊活動が松本被告の指揮によるものであることを認めないばかりか、一部の信徒が関与したにすぎないとして、その責任の所在を明らかにしない。そのかたくなな姿勢に危険な要素が潜んでいる。
〈将来の危険性〉
 組織および主宰者 教団の本部・伝達機能は維持されており、上部からの指示・命令の下に組織立って活動していることは明らかである。教団は松本被告と弟子の一対一の関係で成り立っており、「代表を辞任する」という松本被告の表明は、団の本質を隠匿し、破防法の適用を免れようとした方便に過ぎない。
 また、松本被告が獄中から信徒に対し、破防法適用後は地下に潜り、国家権力に挑戦するよう指示していることも確認されており、「教団が破壊活動に及ぶことはない」という主張は根拠がない。
 信徒の生活状況 教団は多数の新たな拠点を確保し、出家信徒をアルバイトに従事させたり、セミナーや説法会を行ったりして資金確保を図っている。信徒らの転居の頻度は激しく、夜間の出入りも頻繁である。居住先を不在にすることもあり、その活動実態を把握することは従来にも増して困難になっている。
 教義 教団は今なお「真理を守るためには戦う必要も出てくる」などの危険な教えを説いている。
 逃亡信徒 教団は、特別手配犯の逮捕で破防法適用の根拠が崩れたと主張する。しかし、公安庁は、逃亡犯の存在を将来の危険性につながる一つの要因として指摘しているに過ぎず、逮捕をもって将来の危険性がなくなるというものではない。
 むしろ、警察が総力を挙げて捜査を続けていたにもかかわらず長期間にわたって逃亡していた事実や、教団幹部が警視庁を訪れ、逮捕された容疑者への面会・差し入れを要求した事実に照らせば、逃走が教団や信徒の組織的な防衛・支援なくして維持されたとは認めがたい状況にある。
〈調査活動〉
 教団は公安庁の調査活動を批判するが、信徒らの同意を前提とする任意の意思に基づいた面接調査を実施するなどしたものであり、違法・不当な点はない。

オウム真理教団側の陳述要旨】
〈教団をめぐる今日の状況と適用要件の不存在〉
 松本被告の逮捕から一年七カ月が経過したが、この間、事実として教団による暴力主義的破壊活動は一件も発生しなかった。長期の日時の経過と教団の平穏な動静は、破防法の適用要件が存在しないことを客観的に明らかにしている。
 公安庁は、特別手配者らの逃亡継続の事実を「将来の危険性」の根拠の一つとして強調してきた。そうであれば、最近の手配者らの相次ぐ逮捕は「危険性」が客観的に低下したことを当然に意味する。彼らが何らかの新たな違法行為を準備・計画していた事実は認められない。林泰男容疑者の供述により、猛毒のVXが発見・押収されたが、同人がこれを使用する目的を有していたとの報道は一切ない。すなわち、このVXは廃棄物と考えられる。
 また、手配者らの逮捕により、教団が彼らの逃亡に何らの支援を与えていなかった事実が裏付けられ、「組織的な防衛・援護が背景にある」という公安庁の主張が虚構に過ぎないことが明らかになった。
破防法適用により発生する事態〉
 公安庁は教団に破防法が適用されると仮定して、禁止される「団体のためにする行為」の解釈基準を公表した。しかし、しょせん机上の言葉で合法・違法を論じたにすぎず、基本的人権を制約一剥奪するための基準としては具体性も明確性も欠いている。解釈基準は破防法の適用対象を何ら限定するものではなく、かえって立法当時に危惧された破防法の危険性を明らかにするものである。
〈公安庁の証拠に対する批判〉
 公安庁の証拠は弁明手続きに提出されたものと同じく伝聞を重ねたもので、元の供述者やその供述内容を把握することができない。それらをどれだけ積み重ねても、真偽の判断が可能になるわけはない。実際に、公安庁の証拠が事実に反することは、すでに提出した意見書で指摘したとおりだ。また、公安調査官の調査については、金銭の提供や嫌がらせなどの事実があり、供述がゆがめられていることも具体的に指摘した。
〈まとめ〉
 団体規制という重大な処分が司法手続きなしで処理されるのは、司法手続きを待っていては公共の安全が維持できない緊急性があり、誤りを犯すことはあり得ないと確信できることが前提になっているからにほかならない。
 ところが実際は、破防法を適用しなければ公共の安全を維持できない差し迫った危険がないことは明らかである。また、公安審が半年の時間をかけなければ判断に至らないとか、委員の間に異論があるとかいう場合は、「明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な理由」があるとは言えないはずである。
 破防法は劇薬であり、この民主主義社会を殺すことのないよう、公安審の賢明な判断を心より期待する。