京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

メモ016 『オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』(門田隆将)について

ルポライターの門田隆将氏が話題になっているので、門田氏の著作、『オウム死刑囚 魂の遍歴 井上嘉浩 すべての罪はわが身にあり』(以下、『オウム死刑囚』と略)についてわたしが判断したことを書くことにする。

わたしが『オウム死刑囚』を読んで不満だった点の一つが、「オウムの諜報活動の実態がきちんと書かれていない」ということである。
おおくの人たちは、「オウムはいろいろな諜報活動をやっていたはずだ」と思っているだろう。そう推測することには問題はない。問題は、資料から実態を描くことがほとんどできない、ということである。
わたしは、『オウム法廷』全13巻(降幡賢一)をすべて読んで、オウム真理教(以下、「オウム」と略す)の一連の犯行のなかで、諜報活動の印象がうすいと感じた。諜報省長官の井上嘉浩(※1)と自治省大臣の新実智光(※1)の証言を読みなおしても、結論は同じなのである。
いま私のパソコンに、『オウム法廷』全13巻のtxt形式のファイルがある。約5000ページ分である。
この記事を書くために、単語検索してみたところ、やはり諜報活動についてのくわしい証言はほとんどないことがわかった。
わかりやすい例が、警察庁長官狙撃事件の容疑者だった在家信者の巡査長(以下、「A」と略す)である。井上嘉浩がAとの窓口だったことは間違いないのだが、具体的な証言ほとんどない。
少しだけ引用すると、井上証言によれば、(Aから強制捜査の情報を)「一切聞いていない」、(Aは)「部下から「公安のスパイではないか」との話があり、松本智津夫氏に「もういい」と言われたこともあって、以後、彼を使うことはなかった。本当ですよ。」(2上巻P243)とある。
これは小さな問題ではない。
もし、オウムが地下鉄サリン事件の前から諜報活動をしていて、そして、それを警察が気がついていたら、地下鉄サリン事件はまちがいなくちがった結果になっていただろう。
警察が、オウムの諜報活動に関する証拠を、裁判で隠していたならば、それは大問題である。
また、オウムが諜報活動にほとんど無関心なまま、地下鉄サリン事件などの大事件をおこしたならば、それもまた大問題である。世界的にみても、まさに類例のない事件だ、ということになるからである。
現在のわたしは、後者だと判断している。現時点で公開されている資料を読むかぎり、そう判断せざるをえない。調書が大量に公開されたら、ちがう結論をせざるをえなくなるかもしれないが……。

しかし、『オウム死刑囚』を読み返しても、この問題にたいする答えはほぼまったく出てこない。貴重な資料をあつかっているのに、実におしい。
それは、著者の門田氏にそういう問題意識がないからだろう。これはほぼ断言できる。
そして、今回の映画にいろいろと問題が指摘されているが、もしそれが当たっているならば、『オウム死刑囚』の欠落の問題は、関係しているのだろうと推測される。

わたしの書いたことがウソかデタラメというならば、『オウム法廷』全13巻か『オウム「教祖」法廷全記録』全8巻(毎日新聞社会部)(※3)から根拠を引用して反論してほしい。
2020年5月16日まで、校正作業を一時停止してでも反論する予定である。

検索結果の表

巻数 「巡査長」 強制捜査 「二十二日(※2)」
1上 14 9(3)
1下 17 9(5)
2上 22 4(0)
2下 34 6(5)
43 9(2)
28 11(4)
27 2(0)
2(0)
53 3(3)
18 1(0)
38 3(0)
10 42 8(0)
11 25 5(1)
12 37 1(0)
13 91 11(2)


※1 2人とも、すでに死刑執行されている。
※2 ()の中の数字は、1995年3月22日を意味する箇所の数である。
※3 『全記録』のほうは、第120回~第251回の裁判記録まで電子化している。



追記:この本については、現時点では、以下の書評が適切なものだとわたしは判断している。手記の全面公開が一番いい。わたしも、人生がすこしちがっていたら、井上嘉浩とそう遠くない被告席にいた可能性があるとときどき思うからである。
https://www.amazon.co.jp/gp/customer-reviews/R1BRLODYK9OBLU/ref=cm_cr_dp_d_rvw_ttl?ie=UTF8&ASIN=4569841376


@能川、門田、朝日出版広報の3社