京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

検証1-10 1995年3月18日~3月20日の麻原彰晃(松本智津夫)の動向――『オウム法廷』第10巻より

(以下、敬称略。原則として、名前はあいうえお順)
麻原彰晃松本智津夫)の動向、およびその根拠となる証言

1995年3月18日午前2時ころ、上九一色村へ帰るリムジンの中で、村井秀夫、井上嘉浩、遠藤誠一青山吉伸、I(教団幹部)と相談(いわゆる「リムジン謀議」)。
(第10巻収録の証言には、この場面の時刻について書かれていない)
1999年9月22日、麻原彰晃松本智津夫)、杉本繁郎・豊田亨広瀬健一・三被告第70回公判松本智津夫被告証言、P88、P112-123
1999年11月10日、麻原彰晃松本智津夫)、杉本繁郎・豊田亨広瀬健一・三被告第70回公判松本智津夫被告証言、P178、P181-190
2000年3月2日、広瀬健一被告弁護側最終弁論、杉本繁郎・豊田亨広瀬健一・三被告最終弁論、P312-315



○引用
第10巻
P88

 しかし地下鉄サリン事件について、松本被告が自分の「無罪」を再び主張した論理はいささか珍妙だった。事件二日前の未明、東京都内から山梨県上九一色村に帰る途中のリムジン内で謀議があった、とされる点について、松本被告は、「子どもたちと一緒に帰ろうとしたとき井上君(嘉浩被告)らが話がある、と言ってきた。私の意思は(それで乗ることが出来なくなった)子どもたちと車に乗ることだったんですよ。だから事前には何もありはしない。車の中でも、また後でな、と言って私は眠った」と説明し、「それだけで逮捕された。いい加減な調べで逮捕してはいけないんだよ、私を」と言ってのけたのだ。

P112-123

 ――私がお尋ねしているのは、この「識華」のお祝い会で、どんなことが行われたのか、つまり正悟師になった人が決意なんかを述べたんですか。
「ええ、そうですね」
 ――あなたはどんな話をされたんですか。
「ですから、それは大変ですよ。その、私だけですよ(ブツブツ)」
 ――お祝いと激励の言葉を述べたということかな。
「ええ、そうですね」
 ――このお祝い会は、何時ごろから始まって、何時ごろに終わりましたか。
「一時間くらいですかね、時間ははっきり覚えていない」
 ――これが終わってから、上九に帰りましたね。
「ですから、これも見せますから、よく見てて下さい。(三秒ほどして)これ、識華です。(さらに十五秒)わかりますか。それに私か子どもたちと一緒に車に乗ろうとしています。ここで、井上嘉浩君、村井秀夫君、遠藤誠一君が話をしたいという話になります。そうか、と。そして、つまりこのときに何の意思もないのですよ、わかりますか」
 ――こういうふうに聞きましょうか。
「(構わずに話を続け)………マンジュシュリー(村井元幹部)が話しています。遠藤誠一君に話しています。この後出てくるのが、私の意思は子どもと一緒に車に乗る、こういう話なんです。事前に何もありはしないんですよ。出てるでしょ」
 ――質問に端的に答えてください。私か最初に聞いたのは、「識華」のお祝い会を終わって、上九の教団施設に帰りましたね。帰るときは何で帰ったんですか。車に乗って帰ったんですか。
「ですから、もう一度映像を見せます。いいですか。(また二十秒)…………どうです、聞こえますか」
 ――車で帰ったんですね。
「車ですね」
 ――ロールスロイスのリムジンですか。
ロールスロイスのリムジンですよ。つまり、このとき私は子どもと乗るつもりだった。つまり、私の意思で乗ったのではないから、検察も警察も……」
 ――それはさらに話してもらいますから。この車に乗ったのは誰ですか。
「ですから、何度も言ったとおり、もう(根拠が)なくなっていますから。(ふと思い出したように)いい加減な調べで逮捕してはいけないんだよ、私を」
 ――まず、誰が乗ったか、これについて答えてください。あなた以外に誰がいますか。井上、遠藤、ほかに、青山(吉伸被告)はいましたか。
「いや、青山がいましたも何も、私の意思は、子どもたちと帰ることです」
 ――まず、客観的事実を聞いているんですよ。
「客観的事実ですよ。ですから、私は無罪!」
 ――先回りしてあなたの方から言わなくても、私が聞いてあげるから。誰が乗ったんですかと聞いているんです。
「……(何かブツブツと話すが聞き取れない)」
 ――青山は乗りましたか。
「……(同じ)」
 ――I(法皇官房の実質的トップ=匿名にする)は乗りましたか。
「(独り言のように)頑張れよ、さあ識華ちゃんは後ろに乗って、お母さんは……、体がパラパラだから、しっかりと寝るしかない。アーナンダ(井上被告)が話かあります、ここから始まるんだよ」
 ――あなたは「識華」へ来るときは、家族と一緒に車で来たんですか。
「ええ」(中略)
 ――あなたは、家族と一緒にリムジンで帰ろうと思っていたんでしょう。
「ええ、そうです」
 ――ところが、実際は。
「ですから、そうではなく、ここでは、話し合いの中心がなされていないんですよ。そして、それだけではなく、ここで私が引っ張ってるんじゃない」
 ――そのことをいろいろ聞いてあげるから、これから。
「そうですか」
 ――あなたが家族と一緒に車で帰りたいというふうに思ったのに、実際、家族は別の車で帰ったんだろうと。今挙げたような人と、あなたは一緒に車に乗った、それはどうしてですか。
「ですから、何か私に会って話したいというので一緒に乗った。それはリビングでもそうですよ」
 ――車に乗るときに、その中身は何かということで、具体的にこういう話というのは出たんですか。
「いや、何も出ていません」
 ――それで、車の中では、どんな話が出たんですか。
「ですから、車の中も何も。ここでの話は一切また後でな、で終わっていますから、その後の話はないですから」
 ――さっき、あなたは、井上や遠藤が話があると言うのでリムジンに乗ったということでしょう。
「うん」
 ――その話は、リムジンの中ではしなかったんですか。
「後で話せばいいじゃないか、じゃあ、よろしくな、それで終わりです」
(略)

P178

 弁護側の尋問はやや中途半端なまま一応それで終了し、検察官が尋問に移っても、松本被告の調子は変わらなかった。検察官はまず、豊田、杉本両被告が今どこにいるかを再度聞きただすが、そのやりとりの途中で証人は突然、地下鉄サリン事件に使われたサリンは井上嘉浩被告が「持っている」とリムジン内で言ったと、それまで述べたことのない、考えようによっては極めて重大な説明を始めるのだった。

P181-190

(略)
「よろしいでしょうか、エーと(とまた英語説明の後、日本語で、と言われて)、井上嘉浩がサリンを持っているという話をしたわけですよ。私は知らなかったというのが真実ですよ。こういうことはあり得ない、というのは教団の実態ですが、あり得ないことが起きている、一つひとつですね」
 ――井上嘉浩がサリン持っていると言ったんですか。
「井上嘉浩が、持ってぃたらしいんですよ。ヴァジラヤーナですから、ヴァジラヤーナ知らないと言ってぃますが」
 ――遠藤は検察官に対して、証人からサリン作れるかと聞かれて、条件が整えば作れると思いにますと答えたと述べているんですよ。そういうふうに遠藤はあなたに答えたのではありませんか。
「全然そういう話はない。遠藤誠一サリンを作るということはないです。嘘です、それは」
 ――九五年三月二十日の午前八時十分ころ、八時過ぎころに、地下鉄の電車に薬物が撒かれた。それがサリンだということは証拠上明らかなんですよ。あなたは遠藤にサリンを作れ、何をモタモタしてるんだ、早く作れ、こういうふうに指示したのではありませんか。
「それはないです」
 ――遠藤誠一は検察官に対して、あなたから、一回ならず、サリンを作れ、早く作れと言われたと、こう述べているんですが。
遠藤誠一の調書はあるんでしょうか。ないと思いますよ、それは嘘だから」
 ――あるから言ってるんですよ。
「今私が述べたのが真実で、これ以外の真実はありません」
 ――グルはお供物などに修法という行為をしますか。修法ってありますよね。
「修法にするのはタターガタ・アミダンマや神々に対して食べ物をお布施するときに祈るんですね。これが修法です」
 ――食べ物以外に修法をすることはあるんですか。
「食べ物以外にももちろんあります」
(略)

P198-211

●被告人本人の尋問
《杉本繁郎被告》
 ――杉本から伺います。杉本はわかりますか。
 「ガンポパ正悟……、ガンポパの声が出てますが」
 ――ガンポパということもわかりますね。それともあれですか、天界の杉本と言ったほうがよろしいですか。
「……天界、いいでしょう、はい。天界の杉本君しかわかりません、私にとっては」
 ――じゃ、前回の証言でちょっと確認したいことがあるんですが、前回、あなたの空中浮揚の写真のことで弁護人から聞かれましたね、誰が撮ったのかというふうに。ご記憶ありますか。
「空中浮揚については、杉本君が一九八六年に見てるはずですから、それを順に見たものを投影してください」
 ――それでお聞きしたいのは、あなたの空中浮揚の写真を撮ったのは『週刊プレイボーイ』のカメラマンではなかったかということです。そういう記憶がありませんか。
「……見てるでしょう」
(略)
 ――私たちの刑が確定した段階で、あるいは、その後死を迎えるまでの間に、例えば、私たちはあなたにだまされたと、あなたを信じた自分がバカだったと、あるいは私たちが刑に服することで償えたんだと、そのように考えて自分をごまかすことが可能なんですよ。そうやって自分を納得させることが出来るわけでしょう。でも、被害者の方々はそうはいかないでしょう。自分をごまかすことも、現実から逃避することも出来ないでしょう。その方々に対して、一体どうお詫びをすればいいわけですか、一体どうやって私たちは償えばいいんですか。
「これは難しくてね、これ、私、彼らに記憶修習の……」
 ――難しいんですか、その答えは。
「……テンションズ、だからやめてしまったんだよ」
 ――何か被害者の方に対して、今あなたがこの場で申し上げることはないんですか。
「やっぱり……」
 ――まさか、この一連のオウム事件で、あなた、あるいは教団との縁が出来て、未来世において、被害者の方々が救われるなんてバカな考えをあなたは持ってるんじゃないでしょうね。
「……それはシャットアウトしてきているから、そして、思案した上で、何も答えられないんだ……」
 ――結局あなたは何も答えられないんですか。最終解脱者としての能力というものはどうしたんですか。
「難しいんですよ……」
 ――あなたが私たちについてきた嘘を挙げればたくさんありますけれども、もう時間がありませんから、最後の一言だけ申し述べておきます。これはかつてあなたの法廷で私が申し述べたんだけれどもね。
「うん」
 ――「ひとたびの戒めに知恵ある者の徹するは、愚者への百たたきよりも深し」。この言葉の意味があなたにわかりますか。このときあなたは退廷させられていたから、聞いてはいらっしゃらないかもしれませんが、知恵ある人に対する一度の叱責は、愚か者にする百度のむちたたきよりも効果があると、そういう意味です。あるいは、賢人は、賢い人は過ちを認めるけれども、愚人、愚か者は過ちを繰り返すと、そういう意味です。意訳をすれば、バカに付ける薬はないと、そういう意味ですよ。私は今そう思ってます。そして、私自身もあなたを信じて、本当にもう……大バカ者だったと思ってるし、そういう気持ちがあなたにわかりますか。
「…………(無言、十秒)」
 ――あなたはかつて、法廷で裁判官に裁かれるよりも、死後の回魔の裁きのほうが怖いと、そう言ったことがありましたね。その言葉は嘘だったわけですか。
「…………」
 ――というのは、あなたが私たちに説いてきたことは、真実ではなかったでしょう。
「…………」
 ――自分の泣いたことも忘れましたか。それとも都合の悪いことはお答え出来ませんか。
「さすがに……(何か発言するが聞き取れず)」
 ――じゃ、もう結構です、終わります。

豊田亨被告》
 ――松本被告、僕は今日、何も言わないつもりで来たんですけれども、今日のあなたの態度を見て考えが変わりました。あなたはグルなんですか、グルなんですか。グルじゃないんならはっきりとさせたらどうですか。
「…………(無言)」
 ――質問に答えないで、かわしているだけで。何よりも、被害者のことをどう思ってるんですか。
「…………」
 ――あなたの態度を見ていると、自分の公判が長引くのに安住して、現実から逃避しているだけにしか思えないんです。どうなんだ。
「…………」
 ――どうせ返事はないでしょう。最後に一点だけ言います。今、教団に残ってる人、この現実をしっかり見た方がいいと思います。証人は前回、地下鉄サリン事件は井上と村井に押し切られたと言いました。つまり、彼には弟子を止める力がないわけです。そんなグルについていていいんでしょうか。しっかりと現実を見てほしいと思います。これ以上過ちを繰り返さないでください。以上です。


P312-315

(6)リムジンの車中謀議に同席していた青山が、地下鉄サリン事件では起訴されず、殺人未遂、犯人隠匿、隠避、詐欺未遂、誣告、偽証のみでの公訴提起で、求刑十五年であり、地下鉄サリンの車中謀議に同席し、地下鉄サリン事件の犯行声明文の作成も任されていたIが地下鉄サリン事件で起訴されず、逮捕、監禁容疑でも不起訴処分、亀戸異臭事件の中心人物であり、各種違法行為にも関与していた上祐が偽証、有印私文書偽造、同行使のみで懲役三年の判決で先頃出所というものである。
 従って、このようなオウム真理教団が敢行した犯罪の特殊性、特異性に鑑みれば、被告人より組織的に上位にあり、教団の強大化と武装化の推進に大きな影響を与えた石井、上祐、青山、I、林ら他の幹部との処罰の均衡も刑事政策的正義の見地から考慮されるべきである。
(略)
 ところで、検察官は、論告において、「リムジン内で松本が実行を指示し、松本と村井、井上、遠藤等との間に本件犯行の共謀が成立した」と主張している。すると、右リムジン車内での謀議の場面に同席したIは何らの咎も受けず、通常の生活を送っており、青山は懲役十五年の求刑を受けるにとどまっているという現実を正義の名の下において肯定することが出来るであろうか。
(略)

○補足
P198-211の、杉本繁郎と豊田亨の麻原(松本)への批判は非常に重みがあるので、この部分だけでも必ず読んでほしい。
それにしても、この巻まで、遠藤誠一と麻原(松本)とのやりとりが問題になっていないというのは、不思議な感じがする。