京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

『カラマーゾフの兄弟』P370-381   (『ドストエーフスキイ全集』第13巻(1959年、米川正夫による翻訳、河出書房新社))[挑戦5日目]

がら立ちどまった。ミーチャはっと立ちあがった。その顔には驚愕の色が現われていた。彼はさっと蒼くなったが、すぐにおずおずした、哀願するような微笑が、唇の上に閃めいた。と思うと、彼はいきなりわれを忘れて、カーチャのほうへ両手を伸ばした。それを見ると、カーチャもさっと男のそばへ駈け寄って、男の両手をつかみ、おしつけるように寝台の上に腰をおろさせ、自分もそのそばに坐った。彼女はいつまでもその手を放さないで、しっかりと痙攣的に握りしめた。二人は幾度か何やら言いだそうとしては、またやめて、じっと黙ったまま、妙な微笑を浮べながら、吸い着けられでもしたように、互いに顔を見合せていた。こうして、二分間ばかり過ぎた。
「赦してくれたのかね、どうだね?」ミーチャはついにこう呟いた。と、同時にアリョーシャを顧みて、嬉しさのあまり顔を歪めながら叫んだ。
「お前にはわかるだろうね、おれが何を訊ねてるか! わかるだろう?」
「だから、わたしはあなたを愛したのよ、あなたはほんとに寛大な人なんですもの!」突然、カーチャはこう叫んだ。「それに、わたしがあなたを赦すことなんかありませんわ。かえってわたしこそ、あなたに赦していただかなくちゃならないんですもの。でも、赦されても赦されなくっても、――あなたって人は、わたしの心の中で、永久に傷あととして残りますわ。そして、わたしもやはりあなたの心の中にね、――そうなくちゃなりませんわ……」
 彼女は息をつぐために言葉を切った。
「わたし何のために来たんでしょう?」彼女はまた興奮して、早口に言いはじめた。「あなたの膝に縋りつくためですわ、あなたの手を握りしめるためですわ。こんなに堅く、痛いほど、――ね、憶えてらして? モスクワでも、こんなにあなたの手を握りましたわね、――そして、また、あなたがわたしの神様で、わたしの喜びだってことを、また改めて言うためですわ、わたしが気ちがいになるほどあなたを愛してるってことを、あなたに言うためなんですわ。」彼女は苦しげに、呻くようにこう言って、いきなり貪るように、男の手に唇をおしつけた。
 彼女の目からは涙がほとばしり出た。アリョーシャは無言のまま、ばつの悪そうな様子で立っていた。彼はいま目の前に見たようなことが起ろうとは、夢にも予期していなかったのである。
「ミーチャ、恋は過ぎ去りましたわ!」とまたカーチャは言いだした。「けれど、その過ぎ去った思い出が、わたしには苦しいほど大切なのよ。このことはいつまでも憶えていてちょうだい。けども、今ほんの一分間だけ、できるはずでできなかったことを、実現さしてもいいわねえ」と彼女は歪んだような微笑を見せながら噺いて、また悦ばしそうにミーチャの顔を見た。「今ではあなたもほかの女を愛してらっしゃるし、わたしもほかの男を愛していますけど、それでもわたしはやはり、永久にあなたを愛しますし、あなたもわたしを愛して下さるわね。わかって? ねえ、わたしを愛してちょうだいな、一生涯愛してちょうだいな!」何かほとんど威嚇するように声をふるわしながら、彼女はこう叫んだ。
「愛するよ、そしてね……知ってるかい、カーチャ」とミーチャは一ことごとに息をつぎながら言った。「僕は五日前のあの時も、あの晩も、お前を愛していたんだよ……お前が卒倒して連れ出されたあの時さ……一生涯! そうだとも、一生涯かわりゃしない……」
 彼ら二人はほとんど無意味な、気ちがいじみたことを囁き合った。その言葉は正直でなかったかもしれない。が、少くともその瞬間だけは真実であった。彼ら自身も自分の言葉をたあいもなく信じていた。
「カーチャ」とミーチャはふいに叫んだ。「お前は僕が殺したと信じているのかね? いま信じていないことはわかっているが、あの時……お前があの証言をした時さ……一たい、一たいあの時そう信じていたのかい?」
「あの時も信じてやしなかったわ! 一度も信じたことはないわ! あなたが憎くなったものだから、急に自分で自分にそう信じさせてしまったの、あの瞬間にね……申し立てをした時には……一生懸命そう信じようとして信じたけれど……申し立てを終ると、もうすぐ信じられなくなってしまったのよ。本当よ。ああ、忘れていた、わたしは自分を罰しようと思って、ここへ来たのに!」彼女は急に今までの恋の囁きとはうって変った、まるで新しい口調でこう言った。
「女よ、なんじの苦痛や大ならん!」とミーチャはわれ知らず口走った。
「もうわたしを帰してちょうだい」と彼女は囁いた。「また来ますわ、今は苦しくって……」
 彼女は立ちあがったが、突然あっと高く叫んで、たじたじと後へしさった。ふいにグルーシェンカが音も立てず、部屋の中へ入って来たのである。それは誰しも思いがけないことであった。カーチャはつかつかと戸口のほうへ行ったが、グルーシェ
ンカとすれ違うとき、急に立ちどまった。そして、白墨のように真っ蒼になって、静かに囁くように言った。
「わたしを赦して下さいな!」
 こっちはじっとカーチャを見つめていたが、ちょっと間をおいて、憎悪にみちた毒々しい語調で答えた。
「お互いに悪いのよ! お前さんもわたしも二人とも意地わるだからね! 赦すたって、どっちが赦すんだろう、お前さんなの、それともわたしなの? まあ、あの人を助けてちょうだい。そうすりゃ、わたしは一生涯、お前さんのために祈ってあげるわ。」
「お前は赦したくないと言うんだな!」ミーチャは気ちがいじみた声で、グルーシェンカをなじった。
「心配しないがいいわ、わたしきっとこの人を助けてあげるから!」カーチャはこう囁くと、いきなり部屋の外へ駈け出してしまった。
「お前はあれを赦してやることができないのか。あれのほうからさきに『赦してくれ』と言ったんじゃないか」とミーチャはまた悲痛な声で叫んだ。
「ミーチャ、このひとを責めちゃいけません。あなたにはそんな権利はないのです!」とアリョーシャは熱くなって兄に言った。
「あんなことを言ったのは、高慢な女の口さきばかりなのよ、しんからじゃないわ」とグルーシェンカは忌わしそうに言った。「もしお前さんを助け出したら、――そしたらすっかり赦してやるわ……」
 彼女は心の中の何ものかを抑えつけるように、そのままおし黙ってしまった。彼女はまだ平静に返ることができなかったのである。あとでわかったことだが、彼女はこの時まったく偶然に入って来たので、ああいうことに出くわそうとは、まるっきり予想しなかったのである。
「アリョーシャ、あれのあとを追っかけてくれ!」ふいにミーチャは弟にこう言った。「そして、あれに言ってくれ……どう言ったものかなあ……とにかく、このままあれを帰さないでくれ!」
「晩までにまた来ますよ!」アリョーシャはこう言って、カーチャのあとを追って行った。
 彼は病院の塀外でカチェリーナに追いついた。彼女は急ぎ足に歩いていたが、アリョーシャが追いつくやいなや、早口に言いだした。
「いいえ、わたしあの女の前で自分を罰することなんかできません! わたしがあの女に『赦して下さい』と言ったのは、どこまでも自分を罰しようと思ったからですわ。それだのにあの女は赦してくれません……わたし、あの女のああいうところが好きですわ!」とカーチャはいびつな調子でつけ加えた。その目はなまなましい憎悪に輝いた。
「兄はこんなことになろうとは、夢にも思わなかったのです」とアリョーシャは呟いた。「兄はあのひとが来やしないと思ったので……」
「それはそうでしょう。ですが、そんな話はもうよしましょう」と彼女は遮った。「ねえ、わたしもうあの葬式へ、ご一緒に行くことができなくなりましたわ。わたしはお供えの花だけ届けておきました。お金はまだあるでしょうね。でも、もし入り用でしたら、わたしはさきざき決してあの人を捨てないって、そう言ってちょうだいね……さあ、もうお別れしましょう、さあ、どうか行って下さい。あなたももう遅くなりましたわ、午後の祈祷の鐘が鳴っています……どうか行って下さい!」

   第三 イリューシヤの埋葬      アリョーシャの別辞

 実際もう遅かった。向うではみんな彼を待っていたが、とうとう待ちきれなくなって、花で飾られた綺麗な柩を、会堂へ運ぶことに決めていた。それは哀れな少年イリューシャの柩であった。彼はミーチャが宣告されてから、二日たって死んだのである。アリョーシャが門のそばまで行くと、イリューシャの友達の子供らは、歓呼の声をあげて出迎えた。長い問まちあぐんでいた一同は、彼が来たのを非常に喜んだのである。少年たちは十二人ばかり集っていたが、みな背嚢を負い、鞄をかけていた。『お父さんがさぞ泣くだろう。どうかお父さんのそばにいてあげてちょうだい。』イリューシャがかつてみなにこう言ったことがあるので、彼らはこの言葉をおぼえていたのである。少年たちはコーリャ・クラソートキンに引率されていた。
カラマーゾフさん、僕はあなたが来て下すったので、どんなに嬉しいかしれませんよ!」とコーリャはアリョーシャに手をさし伸べながら叫んだ。「この家は実に悲惨ですね。まったく見ていられないくらいですよ。スネギリョフも今日は酔っていませんよ、あの人がきょう少しも飲まなかったのは、僕たちもちゃんと知っているんだけど、あの人はまるで酔っ払いみたいです……僕大ていのことなら驚かないけれど、これは本当に恐ろしい。カラマーゾフさん、もしご迷惑でなかったら、一つ訊いておきたいことがあるんですよ、あなたが家へお入りになる前にね。」
「コーリャ、それは何のこと?」アリョーシャはちょっと立ちどまった。
「あなたの兄さんは罪があるんですか、それともないんですか? お父さんを殺したのは、兄さんですか?
 下男ですか?僕たちはあなたのおっしゃることを本当にします、話して下さい。僕はこのことを考えて、四晩も眠らなかったんですよ。」
「下男が殺したんです。兄に罪はありません」とアリョーシャは答えた。
「僕もそうだと思ってるんです!」スムーロフという少年が、だしぬけにこう叫んだ。
「そうしてみると、あの人は正義のために、無辜の犠牲として滅びるんですね」とコーリャは叫んだ。「でも、たとえ滅びても、あの人は幸福です! 僕はあの人を羨ましく思います!」
「君は何を言うんです? どうしてそんなことが? 何のためです?」とアリョーシャはびっくりして叫んだ。
「でも、僕はいつか正義のために、自分を犠牲にしたいと思ってるんですもの」とコーリャは狂熱的にそう言った。
「しかし、こんなことで犠牲になるのは、つまりませんよ、こんな恥さらしな、こんな恐ろしい事件なんかで!」とアリョーシャは言った。
「むろん……僕は全人類のために死ぬことを望んでるんです。でも、恥さらしなんてことは、どうだってかまいません、僕らの名なんか、どうなったってかまやしない。僕はあなたの兄さんを尊敬します!」
「僕も尊敬します!」ふいに群の中の一人がこう叫んだ。それは、かつてトロイの創建者を知っていると言った、あの少年であった。彼はこう叫ぶと同時に、やはりあの時のように、耳のつけ根まで牡丹のように赤くなった。
 アリョーシャは部屋へ入った。白い紗で飾られた空色の柩の中には、両手を組み合せ、目を閉じたイリューシャが横になっていた。その顔はやつれていたが、死ぬ前とほとんど変りがなかった。そして、不思議なことには、死骸からほとんど臭気が発しなかった。顔には厳粛な、もの思わしげな表情が浮んで、十文字に組み合された、さながら大理石で刻んだような手は、ことに美しく見えた。その手には花が持たせてあった。それに、棺の内側も外側も、きょう早朝リーザ・ホフラコーヴァが送って来た花で、一面に飾られてあった。そのほか、カーチャからも花が贈られていた。アリョーシャが戸を開けた時、二等大尉はふるえる手に花束を持って、大事な子供の死体の上にふり撒いていた。彼はアリョーシャの入って来るのさえ、ほとんど見ることができなかった。それに、彼は誰も見たくなかったのである。しくしく泣いている気ちがいの『おっ母さん』(妻)さえ見まいとした。彼女は痛む脚で立ちあがり、死んだ子供をそば近く見ようと骨折っていた。ニーノチカは椅子に腰かけたまま、少年たちにささえられて、柩のそばへ間近く寄った。彼女は腰かけたまま、死んだ弟に頭を押しつけて、やはり静かに泣いているらしかった。スネギリョフは活気づいたような顔つきを装うていたが、しかしどうやらぼんやりとして、同時にまたいらいらしているようでもあった。彼の身ぶりも、ときどき口走る言葉も、なかば気ちがいじみていた。『坊や、可愛い坊や!』彼はイリューシャを見ながら、間断なくこう叫ぶのであった。彼は、イリューシャがまだ生きている時分から、『坊や、可愛い坊や!』と言って、愛撫する慣わしだったのである。
「お父さん、わたしにも、花をちょうだい。あの子が手に持っているあの白い花を取って!」気ちがいの『おっ母さん』はすすり泣きながら叫んだ。イリューシャの手に持たせてある白い薔薇の花が、ただ無上に気に入ったのか、それとも記念のために取っておきたいと思ったものか、いずれにしても、彼女は身をもだえながら花のほうへ手を伸ばした。
「誰にもやらん、何にもやらん!」とスネギリョフはつっけんどんに叫んだ。「この花はあれのものだ、お前のものじゃない。何もかもみなあれのものだ。お前のものは一つもありゃせん!」
「お父さん、おっ母さんに花をあげてちょうだい!」ニーノチカは涙に濡れた顔を上げてそう言った。
「何にもやりゃせん。おっ母さんには、なおさらやらん! おっ母さんはあれを可愛がらなかったんだもの。あの時なんか、あれの大砲を取り上げたじゃないか。でも、あれは、素直におっ母さんにやったっけなあ。」イリューシャが、あのとき譲歩して、自分の大砲を母親に渡したことを思い出すと、二等大尉は急にすすり泣きをはじめた。憐れな狂女も両手で顔を蔽いながら、静かにさめざめと泣きだした。父親がいつまでも柩のそばを離れようとしないのに、早くも時刻が迫ったのを見ると、少年たちは柩のそばヘー塊りに集って、みんながかりでそれを持ち上げはじめた。
「わしは柵の中に葬りたくないんだ!」とスネギリョフはだしぬけに叫んだ。「石のそばに葬るんだ。わしたちの石のそばヘ! イリューシャがそうしろって言ったんだ。墓場へ持って行かせやしない!」
 彼はもう三日も前から、石のそばへ葬ると言いつづけているのであった。けれど、アリョーシャや、クラソートキンや、あるじの老婆や、老婆の妹や、少年たち一同がそれに反対したのである。
「まるで首縊りのように、穢らわしい石のそばに葬ろうなんて、何という料簡だね」とあるじの老婆は威丈高になって言った。「その柵の中には、ちゃんと墓場があるじゃないか。あそこに葬られりゃ、みんなにお祈りがあげてもらえるというもんだ。会堂から讃美歌が聞えるし、助祭さんがあげて下さる有難い立派なお経も、毎日イリューシャの耳に届くから、まるであれの墓のそばで読んでもらってるようなもんじゃないかね。」
 二等大尉はとど手を振って、『じゃ、どこへなと持って行きなさい!』と言った。少年たちは柩を持ちあげたが、母親のそばを通る時に、ちょっと立ちどまって、床へおろした。それは、母親にイリューシャと告別させるためであった。この三日間、しじゅう離れたところからイリューシャを見ていた彼女は、今すぐそばで大事なイリューシャの顔を見ると、体じゅうふるわして、ヒステリックに白髪頭を振りはじめた。
「おっ母さん、イリューシャに十字を切って祝福してやってちょうだい、接吻してやってちょうだい」とニーノチカは母親に叫んだ。けれども、母親はおし黙ったまま、自動人形か何かのように、頭を前後に振りつづけていた。その顔は、烙けつくような悲しみのために、歪んで見えた。と、ふいに彼女は自分の胸を拳で叩きはじめた。柩は運び去られた。ニーノチカは柩が自分のそばを通るとき、死んだ弟の唇に最後の接吻をした。アリョーシャは部屋を出る時、あるじの老婆に向って、残っている人たちに気をつけてくれるように頼もうとしたが、婆さんはみなまで言わせなかった。
「わかってますよ、あの人たちのことは引きうけましたよ。わたしもキリスト教徒ですからね。」そう言って、老婆は泣いた。会堂まではさほど遠くなく、僅か三百歩ばかりのものであった。はればれとした静かな日で、少し凍《いて》気味であったが、大したこともなかった。式の始まりを告げる鐘の音は、まだ鳴り渡っていた。スネギリョフは喪心したようなふうで、あたふたと柩のあとについて走った。彼は古ぼけた夏着のような短い外套を着ていた。鍔広の古いソフトは、被らないで手に持っていた。彼は何やら深い思案にくれてでもいるように、急に手を伸ばして柩を持とうと、担ぎ手の邪魔をしたり、あるいは柩の側を駈け廻って、どこかに居場所を決めようとしたりした。花が一つ雪の上に落ちた。すると彼は、この花を失うことに何か大変ふかい意味でもあるかのように、駈け出してそれを拾い上げた。
「あ、パンを、パンを忘れて来た。」彼はひどくびっくりして、だしぬけにこう叫んだ。けれど、少年たちはすぐそれに応じて、パンはちゃんと自分で持って来て、かくしの中へ入れてあると教えた。彼はいきなり、それをかくしから引っ張り出して、本当に持って来たことを確かめると、やっと安心した。
「イリューシャがそう言ったんですよ、イリューシャが」と彼はさっそくアリョーシャに説明した。「ある晩、私があの子の寝台のそばに腰かけていますとな、あれは急に、『お父さん、僕の墓に土をかけるとき、墓の上にパンの粉を撒いて、雀が飛んで来るようにして下さい。雀が飛んで来たら、僕は一人ぼっちでないことがわかって嬉しいから!』って言うんですよ。」
「それは、非常にいいことです」とアリョーシャは言った。「しじゅう持って行ってやるといいですね。」
「毎日もって行きましょう、毎日!」二等大尉はすっかり活気づいて、こう呟いた。やがて、一行は会堂へ着いて、その真ん中に柩をおろした。少年たちは棺のまわりを取り巻いて、勤行の間じゅう、じっと行儀よく立っていた。それは古い、しかもかなり貧しい会堂で、聖像も多くは金銀の飾りがとれていた。」けれど、こういう会堂のほうが、かえって祈りをするにふさわしいものである。祈祷式の間は、スネギリョフもいくらか静かになったが、やはりときおり、われともなしに意味のない焦躁におそわれた。柩の側に寄って、棺かけや花環を直すかと思うと、今度は、燭台から蝋燭が一本落ちたのを見ると、慌しく駈け寄って、もとのところへ立てるために、長い間こそこそしたりした。その後やがてすっかり落ちついて、鈍い不安と怪訝の色を顏に浮べながら、おとなしく死者の枕べに立っていた。使徒行伝が読み上げられた後、彼はとつぜん、自分のそばに立っているアリョーシャに向って、使徒行伝は『こんな読み方をするものではない』と嘶いた。しかし、なぜかそのわけは言わなかった。小天使の聖歌が始まると、彼はそれについて一緒に歌っていたが、歌い終らぬうちに跪き、会堂の石畳に額をすりつけたまま、かなり長い間ひれ伏していた。いよいよ埋葬の祈祷が始まって、人々に蝋燭が渡されると、自失していた父親は、またあたふたしだした。悲愴な理葬の聖歌は、さらに激しい感動を彼の心に与えた。彼はにわかに体を縮めたようになって、小刻みにしくしく泣きはじめた。初めは声をひそめていたが、しまいには大きな声ですすり泣きをはじめた。最後に、一同が別れの接吻をして、棺の蓋をしようとすると、彼は亡き愛児の姿を隠させまいとでもするように、イリューシャの死骸の上に掩いかかって、抱きしめながら、その唇を貪るようにのべつ接吻した。人々はようやく彼を説き伏せて、階段からおろそうとしたが、そのとき彼は急に両手をぐいと伸ばして、棺の中から幾つかの花を掴み出した。彼はじっとその花を見ていたが、ふとある新しい想念が脳裏に宿って、そのために一とき肝腎なことを忘れたようなふうであった。彼は次第にもの思いに沈んできたらしく、人々が柩を墓場のほうへ運び出した時は、もうそれを妨げようとしなかった。
 墓は会堂のすぐそばの柵の中にあった。その高価な地代は、カチェリーナが払ったのである。型のごとく儀式がすむと、穴掘りたちが棺を穴の中へおろした。と、スネギリョフが手に花を持ったまま、低く身を屈めて、穴の中を覗き込んだので、少年たちは驚いて外套を掴んであとへ引き戻した。が、彼はもう何か何やら、一さい夢中のように見えた。人々が墓に土をかけはじめると、彼は急に気づかわしげに、落ちて行く土を指さしながら、何やら呟きはじめた。が、何を言ってるのやら、誰にもわからなかった。しかし、また急におとなしくなった。そのとき人々は彼に向って、例のパンを撒くように注意した。すると、彼はやたらにあわでながら、パンを取り出し、引きちぎっては墓の上に撒きはじめた。『さあ、小鳥よ、飛んで来い、さあ、雀よ、飛んで来い!』と彼はそわそわした調子で呟いた。子供のうちの誰かが、花を持っていてはパンをむしりにくかろうから、ちょっと誰かに持たせたらいいだろうと注意したが、彼はそれを渡すどころか、まるで誰かが取ってしまおうとでもしたように、ひどく警戒しはじめた。もう墓ができあがってしまい、パンの切れも撒かれたの含確かめると、彼は急に思いがけなく、しかもきわめて悠々と踵を転じて、家のほうへ向けて歩きだした。とはいえ、彼の歩調は一歩ごとにだんだん忙しくなって、しまいには、駈け出さないばかりに急ぎはじめた。少年だちとアリョーシャは、離れずにその跡からついて行った。
「おっ母さんに花をやろう、おっ母さんに花をやろう! さっき、あんなに恥をかかしたりして」と、彼は急に叫びだした。誰かが、帽子を被らないといけない、もう寒いからと注意したが、彼はそれを聞くと、いかにも腹立たしそうに、雪の上に帽子を投げつけて、『帽子はいらん、帽子はいらん!』と言いだした。スムーロフはその帽子を拾って、あとからついて行った。少年たちはみな一人残らず泣きだした。ことにコーリャと、トロイの創建者を知っている例の少年とが、一等はげしく泣いた。スムーロフも大尉の帽子を持ちながら、おいおい泣いていた。が、それでもほとんど駈け出さないばかりに歩きながら、ふと路傍の雪の上に赤く見えている煉瓦のかけらを拾い上げて、さっと飛びすぎた雀の群に投げつけるだけの余裕はあった……むろん、それはあたらなかった。彼は泣きながら走りづつけた。ちょうど半分道ばかり来た頃、大尉はまたふと足をとめて、ある想念に打たれたように、ちょっと佇んでいたが、急に会堂のほうへ振り返り、いま見棄てて来た墓をさして駈け出した。少年たちはすぐに追いついて、四方から彼にとり縋った。と、彼は打ち負かされた人のように、力なく雪の上へ倒れ、体をふるわせたり、叫んだり、すすり泣いたりしながら、『坊や、イリューシャ、可愛い坊や』と叫びはじめた。アリョーシャとコーリャは彼を抱き起して、慰めたり、すかしたりした。
「大尉、もうおよしなさい。男は我慢しなけりゃなりません」とコーリャは呟いた。
「花を台なしにしてしまいますよ」とアリョーシャも言った。「『おっ母さん』が花を待っていますよ。あのひとはじっと坐ったまま、――さっきイリューシャの花をもらえなかったので泣いています。家にはまだイリューシャの寝床が残っていますよ……」
「そう、そう、おっ母さんのとこへ行かなけりや」とスネギリョフは急にまた思い出した。「寝床を片づけられてしまう、片づけられてしまう!」彼は、もう本当に片づけられてしまうもののように、びっくりしてこう言うとともに、つと立ちあがって、家のほうへ駈け出した。
 もう家までは遠くなかった。一同は大尉と一緒に駈けつけた。大尉は大急ぎで戸を開けると、ついさっき非道に言い争った妻に叫んだ。
「おっ母さん、大事なおっ母さん、イリューシャがお前に花をよこしたよ、可哀そうに、お前は足が悪いんだからな!」彼はそう言って、たったいま雪の中に倒れた時、くちゃくちゃに折れて凍りついた花束を、彼女のほうへさし出した。
 ちょうどこの瞬間、彼は亡きわが子の寝床の側の片隅に、イリューシャの靴がきちんと行儀よく並べられてあるのを見た。それはたった今あるじの老婆が揃えたもので、赤茶けた、つぎはぎだらけの、古い破れ靴であった。それを見ると、いきなり両手を上げてそのそばへ駈け寄り、どうと膝をついて片足をとりあげ、唇を押しつけて、貪るように接吻しながら叫んだ。
「坊や、イリューシャ、可愛い坊や、お前の足はどこへ行ったのだ?」
「お前さんはあれをどこへ連れて行ったの? お前さん、どこへあれを連れて行ったの?」狂せる大尉の妻ははらわたを裂くような声でこう叫んだ。
 この時ニーノチカもとうとう泣きだした。コーリャは部屋の外へ駈けだした。それにつづいて、ほかの子供たちも外へ出た。一番あとからとうとうアリョーシャもすべり出た。
「思う存分、泣かせておくがいいんです」と彼はコーリャに言った。「もうとても慰めようはありませんよ。しばらく待ってから、部屋へはいりましょう。」
「そうです、とても駄目です。ああ、恐ろしい」とコーリャも合槌を打った。「ねえ、カラマーゾフさん。」彼は誰にも聞えないように、急に声を低めてこう言った。「僕は悲しくってたまりません。もしイリューシャを生き返らせることができれば、この世にありたけのものを投げだしても、僕惜しくないんだけど!」
「ああ、私もそう思いますよ」とアリョーシャは言った。
カラマーゾフさん、あなたのお考えはどうです。僕たちは、今晩ここへ来なくってもいいでしょうか? 大尉はまためちゃめちゃに飲みますよ?」
「どうもやりそうですね。じゃ、私たち二人だけで来ましょう。二人であの人たちのそばに、――おっ母さんやニーノチカのそばに、一時間もいてやったら、それでいいでしょう。みんなしてどやどややって来ると、またあの人たちはイリューシャを思い出しますからね」とアリョーシャは注意した。
「今あそこで家主の婆さんが、食卓の支度をしているようです、――おおかた、法事でも始まるんでしょう、坊さんも来るそうですから。カラマーゾフさん、僕たちは今あそこへ行ったものでしょうか、どうでしょう?」
「ぜひ行かなけりゃなりませんね」とアリョーシャは言った。
「だけど、妙ですね、カラマーゾフさん、こんな悲しいとき、だしぬけに薄餅《プリン》なんか出すなんて。われわれの宗教から言っても、不自然なことじゃありませんか。」
「あそこには、鮭も出ていますよ。」トロイの創建者を知っていた少年が、だしぬけに大声でこう言った。
「僕は真面目で君に頼むがね、カルタショフ君、もうそんな馬鹿なことを言って、口を出さないでくれたまえ。ことに、誰も君に話もしかけなければ、君がこの世にいるかどうか、知ろうともしないような時には、なおさら黙っていてくれたまえ。」コーリャは腹立たしそうに彼のほうへ向いて、ずばりと断ち切るように言った。
 少年はかっと赤くなったが、何とも返事ができなかった。そうこうするうち、一同は静かに径をそぞろ歩いていた。と、ふいにスムーロフが叫び声を上げた。
「これがイリューシャの石です。この下に葬りたいと言ったんです!」
 一同は無言のまま、その大きな石のそばに立ちどまった。アリョーシャはその石を見た。と、かつてスネギリョフが物語ったイリューシャの話、――イリューシャが父親に抱きつき泣きながら、『お父さん、お父さん、あの男は本当にお父さんをひどい目にあわしたのね!』と叫んだという話をした、――その時の光景が、たちまちアリョーシャの記憶に浮んだ。何ものか彼の心の中でふるえ動いたような気がした。彼は真面目なものものしい様子をして、イリューシャの友達の愛らしい、はればれした顔を見まわしながら、だしぬけにこう言った。
「みなさん、私はここで、――この場で、みなさんにちょっと言っておきたいことがあります。」
 少年たちはアリョーシャを取り囲み、さっそく待ち構えるような表情を目に浮べながら、じっとアリョーシャを見つめた。
「みなさん、私たちは近いうちにお別れしなければなりません。私が二人の兄だちと一緒にいるのは、もうわずかの間になってしまいました。一人の兄は追放されようとしているし、も一人のほうは瀕死の病床に横だわっています。ですが、私は間もなくこの町を立って行きます。たぶん、長いこと帰って来ないだろうと思います。ですから、みなさん、私たちはもうお別れしなければならないのです。で、私たちはイリューシャの石のそばで、第一にイリューシャを、第二にお互いのことを、決して忘れないという誓いをしましょう。私たちは今後、一生涯、たとえどんなことが起っても、またたとえ二十年を会わなくっても、あの憐れな少年をここで葬ったことを、忘れないようにしましょう、――彼は以前あの橋のそばで石を投げつけられたけど(ね、憶えているでしょう)、あとではみなから愛されるようになりました。彼は立派な少年でした。善良な勇敢な少年でした。彼は自分の名誉と父親の恥辱を感じて、そのために奮然と立ったのです。で、諸君、第一に、私たちは――生涯かれを忘れないようにしましょう。私たちはたとえ重大な仕事で忙しい時にも、――名誉をかち得た時にも、あるいはまた大きな不幸におちいった時にも、とにかくいかなる時においても、かつてこの町でお互いに善良な感情に結び合されながら、あの憐れな少年を愛することによって、私たちが実際以上立派な人間になったことを、決して忘れないようにしましょう、可愛らしい小鳩、――どうか諸君を小鳩と呼ばせて下さい。なぜって、今わたしが諸君の善良な可愛い顔を見ていると、あの黒みがかった空色の鳥を思い出させられるからです、-可愛いみなさん、みなさんには私の言うことがわからないかもしれません。私はときどき大へんわかりにくいことを言うから。しかし、それでもみなさんはいつか私の言葉を思い出して、合点されることがありましょう。総じて楽しい日の思い出ほど、ことに子供の時分、親の膝もとで暮した日の思い出ほど、その後の一生涯にとって尊く力強い、健全有益なものはありません。諸君は教育ということについて、いろいろやかましい話を聞くでしょう。けれど、子供の時から保存されている、こうした美しく神聖な思い出こそ、何よりも一等よい教育なのであります。過去にそういう追憶をたくさんあつめたものは、一生すくわれるのです。もしそういうものが一つでも、私たちの心に残っておれば、その思い出はいつか私たちを救うでしょう。もしかしたら、私たちは悪人になるかもしれません。悪行を退けることができないかもしれません。人間の涙を笑うようになるかもしれません。さっきコーリャ君が、『すべての人のために苦しみたい』と叫ばれましたが、あるいはそういう人に向って、毒々しい嘲笑を浴び
せかけるようになるかもしれません。むろん、そんなことがあってはならないが、もし私たちがそんな悪人になったとしても、こうしてイリューシャを葬ったことや、臨終の前に彼を愛したことや、今この石のそばでお互いに親しく語り合ったことを思い出したら、もしかりに私たちが残酷で皮肉な人間になったとしても、今のこの瞬間に私たちが善良であったということを、内心嘲笑するような勇気はないでしょう! それどころか、この一つの追憶が私たちを大なる悪から護ってくれるでしょう。そして、私たちは過去を顧みて、『おれもあの時分は善良だったのだ。大胆で潔白だったのだ』と言うことでしょう。もっとも、腹の中でくすりと笑うのはかまいません。人はえて立派ないいことを笑いたがるものです。それはただ軽薄な心の仕業です。けれども、みなさん、私は誓って言いますが、よしんば笑っても、すぐに心の中で、『いや、笑うのはよくない、これは笑うべからざることだから!』と言うに相違ありません。」
「それはまったくそうですよ、カラマーゾフさん、僕あなたのおっしゃることがわかります、カラマーゾフさん!」とコーリャは目を輝かして叫んだ。
 少年たちもがやがやと騒ぎだして、やはり何か叫ぼうとしたが、しかしやっと我慢して、感激したような目で、じっとアリョーシャを見つめていた。
「私がこんなことを言うのも、つまり、われわれが悪い人間になることを恐れるからなんです」とアリョーシャはつづけた。「けれど、われわれは何のために悪い人間になる必要がありましょう、みなさん、そうじゃありませんか? まず何より第一に、われわれは善良にならねばなりません。次に、正直にならねばなりません。次に、決しておたがい同士わすれてはなりません、私はまたこれを繰り返して言います。私は誓って言いますが、みなさん、私はみなさんを誰ひとりとして忘れやしません。今わたしを見ておられるその顔は、たとえ三十年たっても一つ一つ思い出します。さっきコーリャ君はカルタショフ君に向って、われわれは『カルタショフ君がこの世にいるかいないか』そんなことを知りたくもない、とか言われましたが、カルタショフ君がこの世におられることも、同君がトロイのことを言った時のような赤い顔をせずに、美しい善良な、そして快活な目で、今わたしを見ておられることなどが、どうして忘れられましょう? 諸君、わが愛すべき諸君、われわれはみんなイリューシャ君のように、寛大かつ勇敢になりましょう。コーリャ君のように利発で、勇敢で、寛大になりましょう(もっとも、同君は将来もっと賢くなられることでしょうが)。またカルタショフ君のように羞恥心に富むとともに、利口で愛らしくなりましょう。しかし、私はこの二人のことだけ言うのではありません! 諸君、諸君はいずれもみんな今後、私にとって愛すべき人だちなのです。私は諸君を残らず自分の心の中へ入れましょう。だから、諸君もどうぞ私をめいめいの心の中へ入れて下さい!ですが、私たちが今後一生涯わすれないし、また忘れないつもりでいるこの立派な美しい感情の中は、私たちを結び合せてくれた人は、イリューシャ君でなくて誰でしょう。同君は善良な少年でしたい可愛い少年でした。われわれにとって永久に尊い少年でした! われわれは今後、永久に同君を忘れず、同君にわれわれの心のよき記憶を捧げようではありませんか、永久に変ることなく!」
「そうです、そうです、永久に、変ることなく。」子供たちはいずれも感動の色を満面にみなぎらして、朗らかに声高く叫んだ。
「あの顔つきも、あの着物も、あの破れた靴も、あの柩も、あの罪の深い不幸な父親も、あの少年が父親のために、勇ましく一人で全級に反抗したことも、すっかり憶えていましょう!」
「憶えていましょう、憶えていましょう!」と、少年たちはまた叫んだ。「あれは勇敢な子供でした、あれはいい子供でした!」
「ああ、僕はどんなにあの子が好きだったか!」とコーリャは叫んだ。
「ああ、諸君、ああ、可愛い親友、人生を恐れてはいけません! 何でも正直ないいことをした時には、人生がなんと美しいものに思われることでしょう!」
「そうです、そうです」と少年たちは感激の声を発して合槌を打った。
カラマーゾフさん、僕たちあなたが好きです!」こらえきれなくなったように、一つの声がこう叫んだ。それはカルタショフの声らしかった。
「僕たちあなたが好きです、僕たちあなたが好きです」と一同は繰り返した。その目には涙が輝いていた。
カラマーゾフ万歳!」とコーリャは歓喜にたえぬように叫んだ。
「そして、なくなった少年を永久に記憶しましょう!」アリョーシャは情のこもった声で、こうつけ加えた。
「永久に記憶しましょう!」とさらに少年たちが引き取った。
カラマーゾフさん!」とコーリャは叫んだ。「僕たちはみんな死からまみがえって命を得て、またお互いに見ることができるって、――どんな人でも、イリューシャでも見ることができるって、宗教のほうでは教えていますが、あれは本当でしょうか?」
「きっとわれわれはよみがえります。きっとお互いにもう一ど出会って、昔のことを愉快に楽しく語り合うでしょう。」アリョーシャはなかば笑いながら、なかば感動のていで答えた。
「ああ、そうなればどんなに嬉しいだろう!」とコーリャは思わず口走った。
「さあ、もう話をやめて、イリューシャの法事に行きましょう。そして、心配しないで薄餅《プリン》を食べましょう。昔からしきたりの旧い習慣ですからね、そこに美しいところがあるんですよ。」アリョーシャは笑った。「さあ、行きましょう! これから私たちはお互いに手を取り合って行くんですよ。」
「永久にそうしましょう、一生、手を取り合って行きましょう! カラマーゾフ万歳!」もう一度コーリャが感激したように叫ぶと、ほかの少年たちはふたたびその叫びに和した。
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