第七篇 アリョーシャ
第一 腐屍の香
永眠せる大主教ソシマ長老の遺骸は、官位に相当する一定の儀式をふんで葬らなければならなかった。人々はその準備に着手した。これは誰しも知るところであるが、僧侶や隠遁者の死体は湯濯しないことになっている。『僧位にあるもの、神のみもとへ去りたる時は(と『大供養書』にも書いてある)、指命を受けたる僧侶、これが遺骸を温湯もて拭い、その額、胸、手、足、膝に、海綿もて十字を描くものとす。その他なにごともなすべからず。』これらのことをことごとく、パイーシイ主教は故長老の遺骸に行った。湯で拭いたのち、法衣を着せ外袍をまとわせたが、その際、規則に従って外袍を十字状に巻くために、少しばかり鋏で切り開いた。そして、頭には八脚十字架のついた頭巾を被せた。頭巾はボタンをかけずにおいて、長老の顔を黒い紗のきれで蔽い、手には救世主の聖像を握らせた。こういう姿に仕立ててから、夜明けごろ遺骸を棺の中へ納めた(これはずっと前から用意してあったので)。棺は庵室のとっつきの広間に、一日据えて置くことにした(それは、故長老が同宿や参詣者と接見した部屋である)。
故長老は大主教の僧位を持っていたから、主教や助祭たちは詩篇でなく、福音書を読話しなければならなかった。ヨシフ主