『カラマーゾフの兄弟』第7編
『ああ、そうだ、僕はここを聞き落した。聞き落したくなかったんだがなあ。僕はここのところが大好きだ。これはガリラヤのカナだ、はじめての奇蹟だ……ああ、この奇蹟、本当に何という優しい奇蹟だろう。キリストは初めて奇蹟を行う時にあたって、人間の悲し…
よ」と彼女はまた薄笑いを浮べた。「でも、やはりあんたが腹を立てたろうと思って、心配でたまらないわ。」 「おや、本当だ、」突然、ラキーチンが心《しん》から驚いた様子で、こう口を入れた。「ねえ、アリョーシャ、本当にこの人は君を恐れてるぜ、君のよ…
ごとくこの理想一つを目ざして突進しないわけにゆかなかった。それゆえ、ときどきその他の一切を忘れてしまうことさえあった(後に自分で気がついたことであるが、彼は前日あれほどまで心配した兄ドミートリイのことを、この苦しい一日の間すっかり忘れてい…
教は、鎮魂祭がすむと、すぐ読誦を始めた。パイーシイ主教は、一日一晩読み通すつもりであったけれど、今のところ庵室取締りとともどもに、だいぶ忙しそうな様子であった。それは、僧院の同宿の間にも、僧院付属の宿泊所や町うちから押し寄せた人々の間にも…
第七篇 アリョーシャ 第一 腐屍の香 永眠せる大主教ソシマ長老の遺骸は、官位に相当する一定の儀式をふんで葬らなければならなかった。人々はその準備に着手した。これは誰しも知るところであるが、僧侶や隠遁者の死体は湯濯しないことになっている。『僧位…