1991-03-01から1ヶ月間の記事一覧
ど、その花々しい政治的活動も、あまねく知れわたっていた。ところが、こんど急にニコライが、K伯爵令嬢の一人と婚約したという噂を、疑う余地もない事実のように世間でいい出した。そのくせ、こういう噂の起こった正確な動機は、だれひとり説明ができなかっ…
り過ぎると、彼女は両手をわなわなと顫わせながら差し上げた。と、まるでものに驚いた子供のように、ふいにわっと泣き出した。もうちょっと棄てておいたら、彼女は大声にわめき出したかもしれぬ。しかし、客はわれに返った。一瞬にして、彼の顔つきは一変し…
いのキリーロフの胸に、毒を注ぎ込んでいたのです……きみはあの男の心に虚偽と讒誣とを植えつけて、理知を狂わしてしまったのです……まあ、行って、今のあの男の様子をご覧なさい。あれがきみの創造物です……もっとも、きみはもう見たんでしょうね」 「ぼくは断…
だか気味が悪くなってきましたよ。しかし、明日あなたがどんなふうにして、顔出しをされるだろうかと、それを楽しんでるんですよ。きっと、いろんなことを準備してらっしゃるでしょう。ときに、あなたはぼくに腹を立てちゃいませんね、ぼくがこんな口のきき…
リーザの世話を焼きながら、自分でもその傍へ並んで腰をかけた。ちょうどからだの明いたピョートルはすぐさまそのほうへ飛んで行って、早口に面白そうにしゃべり出した。この時ニコライは例のゆったりした足どりで、とうとうダーリヤの傍へ近寄った。ダーシ…
て、だれでもそれに記入することができるって……」 大尉は急に言葉を切った。彼は何か困難な仕事でもした後のように、重々しく息をついていた。この慈善会云々は、やっぱりリプーチンの仕組んだ筋書によって、あらかじめ用意して来たものらしい。彼はまたいっ…
た。「シャートフ、おい兄弟![#ここから2字下げ] われは来りぬ汝《な》がもとに 日の昇りしを告げんため もーゆーるがごときかがやきの 木々に……慄うを語るため わが目ざめしを(こん畜生!)小枝の下に わが目ーざーめしを語るため [#ここで字下げ終…
は真実を直視することを恐れないからね……リプーチンはさっき、バリケードでニコラスを防げとすすめたが、あれは馬鹿なのだ、リプーチンは。女というやつは、最も透徹した眼光すら欺くからね。もちろん、le bon Dieu(かの善良なる神様)は女を造るとき、相手…
「きみの話があんまり意外なもんだから……」とスチェパン氏はへどもどした調子でいった。「わたしはどうも本当にならんよ……」 「まあ、待ってください、待ってください」と、まるで相手の言葉も耳に入らないようなふうで、リプーチンはさえぎった。「まあ、こ…
僅か五千ルーブリくらいしか彼の懐ろに入らなかった。そのわけは、ときどきクラブで大きな負け勝負をすることがあっても、その尻拭いをヴァルヴァーラ夫人に頼むのが恐ろしかったからで。こういうことをしまいにすっかり嗅ぎつけた時、ヴァルヴァーラ夫人は…
なった。知事は優しい、感じやすい人であったから、非常にばつの悪い思いをした。しかし、ここに面白いことは、ああいう処置を取った以上、彼もニコライが完全な判断力を持っているにもせよ、どんな気ちがいじみたことをやりだすかわからない人間だ、と考え…