『罪と罰』第4編
え、今まで押えていた声がりんりんと響きだした。 「許すわけにいきません!」と彼は出しぬけに叫ぶと、力いっぱい拳《こぶし》で机をたたきつけた。「あなた聞こえますか、ポルフィーリイ・ペトローヴィチ? 許すわけにいきません!」 「こりゃどうも、あな…
あの女《ひと》は自分の姿を鏡に映して、つくづく見とれてたんですけど、着物なんて何ひとつないんですの、持ちものなんて何ひとつありゃしません、もう何年も前から! でもあの女《ひと》はこれまでついぞ一度も、人にものをねだったことはありませんでした…
ともなく思い出された……が、しかし、それについては、彼もすぐ安心してしまった。『もちろん、あんな男はあいつと十把ひとからげだ!』けれど、彼が真剣に恐れたのはだれかというと――それはスヴィドリガイロフだった……とにかく、いろんな心労が目の前に控え…
わたしがこのとおり服装《なり》ふりかまわなくなったのは、このごろ田舎に逼塞《ひっそく》しているからですよ。それでもやっぱり、当時はわたしも惜金のことで、牢《ろく》へぶち込まれようとしたこともあるんです。相手はネージンのギリシャ人でしたよ。…
「あなたはぼくをおたずねになったんですね……庭番のところで?」とうとうラスコーリニコフは口をきったが、なぜかばかに小さい声だった。 町人はなんの返事もしなければ、ふり返ろうともしない。ふたりはまた黙りこんでしまった。 「あなたはいったいどうし…