『罪と罰』第3編
「あなたはぼくをおたずねになったんですね……庭番のところで?」とうとうラスコーリニコフは口をきったが、なぜかばかに小さい声だった。 町人はなんの返事もしなければ、ふり返ろうともしない。ふたりはまた黙りこんでしまった。 「あなたはいったいどうし…
でも、単に偉人のみならず、わずかでも凡俗の軌道を脱した人は、ちょっと何か目新しいことをいうだけの才能にすぎなくとも、本来の天性によってかならず犯罪人たらざるをえないのです――もちろん、程度に多少の相違はありますがね。これがぼくの結論なんです…
てた。 「諸君、いったいなんだって、いすをこわすんです、国庫の損害じゃありませんか!」(ゴーゴリ『検察官』中の有名なせりふ)と、ポルフィーリイ・ペトローヴィチは愉快そうに叫んだ。 その場の光景は、まずこういったぐあいであった――ラスコーリニコ…
目で彼女を引きとめながら、ラスコーリニコフはせきこんでいった。「どうぞお掛けください。きっとカチェリーナ・イヴァーノヴナのお使いでしょう。どうぞ、そこじゃない、こちらへお掛けください……」 ラスコーリニコフの三つしかないいすの一つに腰をかけ、…
まったことだろう――ただひょいと手を伸ばして、優しい目つきを見せただけだもの……それに、あの子の目の美しいこと、そして顔ぜんたいの美しいこと! ドゥーネチカよりもきりょうがいいくらいだ……でも、まあ、あの服はなんということだろう、なんてひどい身な…
「いったいだれに話したんだい? きみとぼくくらいなものじゃないか?」 「それからポルフィーリイにも」 「ポルフィーリイにもしゃべったっていいじゃないか!」 「ときに、きみは、あの人たち――おふくろと妹を左右する力を、いくらか持ってるだろうね? 今…
れは酒のせいじゃありません。これはあなたがたを見たとたんに、ぼくの頭へがんときたんです……だが、ぼくのことなんか、つばでも引っかけてください! 気にとめないでください。ぼくは口から出まかせをいってるんです。ぼくはあなたがたに価しない……ぼくはと…
彼はからだじゅうおこりにでも襲われたような気持ちで、静かに階段をおりて行った。自分ではそれと意識しなかったけれど、張り切った力強い生命が波のように寄せて来て、その限りない偉大な新しい感覚が、彼の前進にみちあふれた。この感覚は、ひとたび死刑…