京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

「破防法適用請求に対する公安審査委員会の棄却決定書要旨」(1997年1月31日、『オウム法廷』4巻)

破防法適用請求に対する公安審査委員会の棄却決定書要旨】(敬称、呼称略)
 第1 序論
 1、2、3(略)
 4 証拠による審査の原則について
(1)(2)(略)
(3)証拠能力および証明力について
 ア 公安調査官の調査権限(略)
 イ 公安調査官作成の調査書の分類(略)
 ウ 調査書の証拠能力および証明力
 破防法上、公安調査官には調査権限が認められているが、その調査は公共の安全の確保に寄与するとの目的を達成するため、団体の活動として暴力主義的破壊活動を行った団体に対する規制措置の要否の判断に資するために行われるものであり、その性質上、調査の相手方の氏名その他、その特定にかかる部分を調査書から削除して白地としたうえで、弁明期日ないし当委員会の審査手続きに提出することは、調査の相手方をはじめとする関係人の生命、身体、財産等の安全を保護するためにはやむを得ない措置と考える。
 とはいえ、以上はあくまでこのようないわゆる「白抜き調書」がそのゆえをもって証拠能力を否定されるべきではないというにとどまる。破防法の適用いかんは国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから、もとより、その証明力すなわち証拠価値の有無、程度については、「白抜き」であることをも考慮しつつ、調査の日時、場所、経緯、方法等その調査が行われた事情、さらには記載内容の具体性、明確性、迫真性等の諸点、他の証拠による裏付けの有無、程度を併せ考えたうえで、格別に慎重な評価を行うべきことはいうまでもない。当委員会は、このような見地に立ち、公安調査官作成の調査書の証拠価値の判定に当たった。
(4)(略)
 第2 処分請求の適法性について
 1 弁明手続きについて
 本件弁明手続きは、破防法所定の形式的要件を充足しているとともに、実質的にも告知・聴聞の趣旨を充足しており、本件弁明手続きは、適法に行われたものと認められる。
 2 処分請求等について(略)
 第3 当委員会の認定(その1)
 本団体の沿革および構成と政治上の主義について(第4のいわゆる松本サリン事件の時点まで)(略)
 第4 当委員会の認定(その2)
 本団体による暴力主義的破壊活動(いわゆる松本サリン事件)について
 1、2(略)
 3 暴力主義的破壊活動としての松本サリン事件
 本団体が、その政治上の主義を推進する目的で、殺人、同未遂の行為を行ったこと、すなわち、破防法七条二号所定の団体の活動として暴力主義的破壊活動を行ったことは明らかである。
 4、5(略)
 第5 当委員会の認定(その3)
 本団体による将来の危険性について
 1 破防法七条所定の団体に対する解散指定の要件
(1)「継続または反覆して」の意義(略)
(2)「明らかなおそれ」の意義 
「明らかなおそれがある」というためには、危険が現在することまでは要求されないものの、将来いつかは危険の発生がありうるかもしれないという漠然たる不安感や、抽象的な危惧の念を払拭しきれないという程度の主観的なものでは足りず、今後ある程度近接した時期に、団体の活動として破防法所定の暴力主義的破壊活動に該当する危険の発生することが、顕著な蓋然性をもって客観的、合理的に認められることを必要とするものと解すべきである。
(3)「十分な理由」の意義
「十分な理由」とは、以上のような「明らかなおそれ」を証拠によって認定するについて、合理的に判断して十分と思われる理由が求められることを意味する。この場合、当委員会の判断は、行政機関としての判断であり、刑事裁判におけるような厳格な証明に基づいた合理的な疑いを入れる余地のない確信の心証までは要求されていないものと考えるが、危険の明白性と理由の十分性を重ねて要件としている破防法の厳格な法意や、ひとたび解散指定処分が効力を生じた後は、当該処分の原因となった暴力主義的破壊活動が行われた日以後当該団体の役職員または構成員であった者は、当該団体のためにするいかなる行為をすることも禁じられ(同法八条、九条)、これに違反した者は、三年以下の懲役または五万円以下の罰金に処するという重大かつ広範な法的効果が発生する(同法四二条)ことからしても、将来の危険性に関する心証の程度については、刑事裁判における心証の程度に準ずるような高度のものが要求されていると解すべきである。
 2 本団体による将来の危険性を検討するに当だっての基本的な考え方(略)
 3 松本サリン事件以後、地下鉄サリン事件までの本団体の活動状況と当時における本団体の危険性について
(1)(2)(略)
(3)地下鉄サリン事件当時における本団体の危険性
 本団体は、松本サリン事件以後も引き続き九五年三月ころまで、その政治上の主義を推進するために、大規模な武装化を積極的に推進するとともに、同月二十日には、これまでに類例をみない凶悪重大事犯である地下鉄サリン事件を敢行して、目的のためには手段を選ばず、殺人さえも許されるという危険な教義を実践したものであり、当時の状況においては、本団体が将来さらに団体の活動として継続または反復して暴力主義的破壊活動を行うおそれが十分にあったものと認められる。
 4 地下鉄サリン事件以後、現在に至る本団体をめぐる内外の状況の変化と本決定時における本団体による将来の危険性について
(1)刑事、民事、行政手続きの進行(略)
(2)本団体における松本智津夫の立場と本団体の教義の危険性の存続
 ア 本団体の組織の維持および本団体における松本の立場(略)
 イ 本団体の政治上の主義および危険な教義の堅持 本団体が、教義の危険な部分を破棄、払拭したとは認め難く、現時点でも、開祖松本への帰依を中心として、団体の存続を目指して組織の維持に腐心していることが認められ、本団体の危険性が消失したということは到底出来ない。
 しかしながら、以上のことのみをもって、本団体に前記1記載の破防法七条の解散指定の要件が充足されるということは出来ず、同条の要件を満たすか否かについては、現在の本団体の状況、ならびに、本団体を取り巻く諸状況の変化について、さらに慎重に検討しなければならない。
(3)本団体の組織、施設、構成員および資金の現状等
 ア 中央組織の構成とその活動の現状
 本団体は九五年五月には省庁制の組織を廃止しており、現在、本団体には、長老部、勝議部、法務部および広報部等の組織が存在するのみで、組織としての規模・機能を大幅に縮小している。本団体の組織としての求心力は相当に低下しており、組織的な活動が困難となりつつあることが多分にうかがわれる。
 イ 施設の現状
 本団体は、一連の刑事手続きの進行、宗教法人解散に伴う清算手続きおよびその後の破産宣告に伴う破産手続きの進行等により、団体の活動拠点でありかつ出家信徒の生活拠点でもあった本団体の各施設から撤去することを余儀なくされ、全国各地の支部・道場等の大半からも退去している。
 ウ 出家信徒を中心とする団体構成員の現状
(ア)出家信徒、在家信徒の人数 本団体構成員は、九六年十一月の時点で、出家信徒は約五百人、株式会社神聖真理発展社への会員登録をした在家信徒は約五百人と大幅に、かつ急速に減少している。
(イ)出家信徒の生活状況の変化と現状
 本団体が従前の本部施設および支部・道場を撤去したのに伴い、これらの場所を生活の本拠としていた出家信徒らは、新たな生活の場を求めて全国百三十カ所以上に分散し、ほぼ数人単位でアパート等で共同生活を営み、生計を維持するため外部に出てアルバイトなどの仕事をしながら信仰生活を送っていることが認められる。
 エ 資金の現状
 九六年三月二十八日の破産宣告により、現金、預金、不動産および動産はすべて破産管財人の管理下に移り、その後、本団体構成員は各施設から順次退去した。
 他方、出家信徒数および在家信徒数の減少は、本団体の主要な資金源であった布施等による収入の減少を意味し、出家信徒も現状ではアルバイト等をしてようやく生計を維持せざるを得ない状況に陥っていることがうかがわれる。
 オ 総括
 以上のとおりであって、現在の本団体の組織としての人的、物的、資金的能力は、松本サリン事件や地下鉄サリン事件等を敢行した当時と比較すると格段に低下しており、本団体が破壊活動を行うに足りる能力を有していると認めることは極めて困難である。
(4)刑事公判の状況と松本の獄中指示の可能性の存否
 ア 本団体構成員に係る刑事事件の公判状況(略)
 イ 松本の獄中指示の可能性の存否
 松本が本団体構成員に獄中から指示をすることは至難な状況にある。
(5)警察、公安調査庁ならびに報道機関、国民一般の本団体に対する姿勢の変化と本団体の反応
 本団体は、警察、公安調査庁による不法事犯の再発防止のための警備、調査のみならず、報道機関や近隣住民からも常時注視されているといっても過言でない状況にあり、このような状況下で、本団体が再武装化等暴力主義的破壊活動を企て、そのための準備を行うなどということは困難というほかはない。
(6)将来の危険性に関連するその余の公安調査庁の主張の検討(略)
(7)本団体が長期間にわたって暴力主義的破壊活動ないし凶悪重大事犯に及んでいないことと将来の危険性の関係
 地下鉄サリン事件以後、本団体が、長期間にわたり凶悪重大な組織的犯罪を犯していない事実は、前記のとおり、本団体の人的、物的、資金的能力が著しく低下していることなどその危険性が減少していることを裏付ける重要な事実であり、危険の明白性を判断するうえで十分考慮する必要があるといわなければならない。
 5 本団体による将来の危険性についての当委員会の判断
 現時点で、本団体に暴力主義的破壊活動を行うことができる人的、物的、資金的能力が残存、維持あるいは強化されていること、さらに、本団体に依然としてその政治上の主義を推進する目的で暴力主義的破壊活動を行う意欲、志向のあることを認めるに足りる証拠はなく、逆に本団体は、人的、物的、資金的能力を縮小、弱体化させつつ、閉鎖隔離的信
仰集団から広く社会内に分散した宗教生活団体へと移行していることがうかがわれるうえ、本団体を取り巻く諸状況も本団体による暴力主義的破壊活動の再発の余地を困難にしているなど、本団体をめぐる内外の諸状況は、本団体が前記松本サリン事件や地下鉄サリン事件等を惹起した当時の状況とは極めて大きく変化してきているものと認められる。
 結局、公安調査庁提出の証拠をもってしては、本団体が、今後ある程度近接した時期に、継続または反復して暴力主義的破壊活動に及ぶ明らかなおそれがあると認めるに足りるだけの十分な理由があると認めることはできない。
 6 本項を結ぶに当たっての当委員会の見解
(1)判断基準時は決定時であること 当委員会の本件処分請求についての判断の基準時は、公安調査庁長官から処分請求を受理した時点ではなく、本決定時である。本決定時以後、本団体につき、破防法の要件に該当するような事態が生じた場合には、その事態を踏まえたうえ、公安調査庁において、新たに本団体に対する解散の指定を求める旨の処分請求を当委員会に対して行うことが出来るのは当然である。
(2)本団体の凶悪重大事犯に対する刑事責任等の追及や、警察、公安調査庁による本団体に関する今後の職責遂行が、本決定とは別個に厳正、適切になされるべきは当然である
 ア 本団体による凶悪重大事犯については、これに関与したとされる本団体構成員に対し、逮捕・起訴のうえ、刑事手続きにおいてその刑事責任が厳正に追及されており、また、関係被害者らから本団体ないし関係構成員に対して、民事上の損害賠償請求もなされ、民事裁判手続きにおいて民事責任の追及が行われている。さらに、宗教法人オウム真理教に対しては、宗教法人法に基づき解散命令がなされたうえ、その清算法人につき破産が宣告され、現在、破産管財人により財産の整理が着々と進められている。本団体ないし関係構成員に対しては、これら諸手続きによりそれぞれの責任の追及が厳正に行われ、被害者に対する慰謝や救済が適切になされるべきことは当然である。本決定がこれらの責任追及にいささかの影響も及ぼすものでないことはいうまでもない。
 イ 当委員会としては、警察および公安調査庁が、その職責上、今後とも、法令にのっとり、本団体の動向把握や所要の捜査、調査活動を継続するものと認識している。本決定は、この点についても何らの影響を及ぼすものではない。
(3)公安調査庁の本件規制処分請求に関する一連の手続きは、本団体に大きな変化をもたらした点において相当の意義があったと考えられること
 九五年五月、公安調査庁は、本団体を調査対象団体に指定して調査を開始し、破防法に基づく団体規制に向けて一連の手続きを進め今日に及んだ。これに対して、本団体の側においても、規制処分の適用を免れるための趣旨も含めて、特別手配者等へ出頭の呼びかけを行いその除名を宣言する、さらに、破産手続きの進行に協力し、出家信徒大多数の氏名および住居を記載した各自筆の陳述書を当委員会に提出するなどしており、また、形の上だけのものとはいえ、弁明手続きにおいて松本が教祖および一部代表者の地位を辞任することおよび教義の危険な部分を封印する旨を宣言し、これをうけて本団体が新教祖を選任する等の対応をとることを余儀なくされるなど、かつての本団体には考えられなかったような種々の行動を行うに至っている。このような一連の行為は、本団体がそれまでの閉鎖隔離的信仰集団から社会内宗教生活団体へと変化しつつあることをうかがわせるものであって、公安調査庁による本件一連の手続きの実施は、本団体に大きな変化をもたらし、本団体の危険性を減少させる効果を導いたものであって、相当の意義があったというべきである。
(4)本団体構成員の社会復帰を促進することの重要性
 このように、本団体は、それまでの閉鎖隔離的信仰集団から社会内宗教生活団体へと変化しつつあることがうかがえるのであって、今後、本団体が暴力主義的破壊活動に及ぶおそれを減少させるための基本的な方策の一環として、本団体構成員の信仰生活を保障しつつ、通常の社会生活を営めるように環境を整備し、様々な情報に接する機会をできるだけ多く与え、その正常な社会復帰を促進することが肝要と考えられる。
 7 証拠(略)
 第6 結論
 よって、本件処分の請求は理由がないので、破防法二二条五項二号により、主文のとおり決定する。