京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

『ドストエーフスキイ全集6 罪と罰』(1969年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-P204

れは酒のせいじゃありません。これはあなたがたを見たとたんに、ぼくの頭へがんときたんです……だが、ぼくのことなんか、つばでも引っかけてください! 気にとめないでください。ぼくは口から出まかせをいってるんです。ぼくはあなたがたに価しない……ぼくはとうてい、あなたがたに価しない人間です!………あなたがたをお送りしたら、さっそくここの濠《ほり》ばたで、水をふた桶《おけ》も頭から浴びます。そうしたらもう平気です……ああ、ぼくがどんなにあなたがたを愛しているか、それをあなたがたが知ってくだすったらなあ!………笑わないでください、そしておこらないでください! ほかの者ならだれをおおこりになってもいいが、ぼくはおこらないでください! ぼくはロージャの友人ですから、したがって、あなたがたの友人です。ぼくはそうしたいんです……ぼくはそれを予期していました……去年、なんだかこう、そうした瞬間があったんです……もっとも、けっして予感なんかしたわけじゃありません。だってあなたは、まるで天から降って来たようなんですものね。ぼくは今晩おそらく夜っぴて寝られないでしょう……そのゾシーモフという男も、さっきロージャが気が狂ったんじゃないかと、心配していましたっけ……ね、だからロージャをいらいらさせちゃいけないんですよ……」
「え、なんとおっしゃるんです!」と母は叫んだ。
「ほんとうにお医者が自分でそうおっしゃったんですの?」とアヴドーチヤもぎょっとしてたずねた。
「いいました。しかし、それは見当ちがいです。まるで、見当ちがいです。先生その、ちょっとした薬を飲みましたんですよ、散薬をね。ぼく見て知っています。そこへあなたがたがいらしたんですよ……ああ……あなたがたは明日いらっしゃるとよかったんだがなあ! しかし、われわれが引き上げたのは、いいことをしましたよ。一時間すると、ゾシーモフがあなたがたにいっさいを報告します。こいつはそれこそ酔ってませんからね! ぼくもその時分にゃさめていますよ……だが、どうしてぼくはあんなにがぶがぶやったんだろう? ほかでもない、あのいまいましい連中が、議論に引っぱりこんだからだ! 議論なんかしないと誓いを立てたのになあ! じつにとほうもないことをいいやがるもんだから!危うく[#「だから!危うく」はママ]なぐり合いをしかねないところでしたよ! ぼくはあそこへ伯父を残して来ました。議長としてね……まあ、どうでしょう、やつらは完全な没人格を要求して、そこに最大の意義を発見して喜んでるんですからね! どうかして自分が自分でなくなるように、どうかして自分が自分に似なくなるように苦心する、それがやつらの間では最高の進歩とされてるんですよ。せめて自己流にでたらめでもいうならまだしも、それどころか……」
「あの、ちょっと」とおずおずした口調でプリヘーリヤはさえぎった。
 けれど、それはただ相手の熱を高めるばかりだった。
「ああ、あなたはこんなことを考えていらっしゃるんでしょう?」ひときわ声を高めながら、ラズーミヒンは叫んだ。
「ぼくが罵倒するのは、彼らがでたらめをいうからだと、そう思ってらっしゃるんですね? ばかばかしい! ぼくは人がでたらめをいうのが好きなんですよ! でたらめってやつは、すべてのオルガニズムにたいする人間の唯一の特権です。でたらめをいってるうちに、真理に到達するんですよ!でたら[#「ですよ!でたら」はママ]めをいうからこそ、ぼくも人間なんです。前に十四へん、あるいは百十四へんくらいでたらめをいわなけりゃ、一つの真理にも到達したものはない。これは一種の名誉なんですからね。ところで、ぼくらはでたらめをいうことだって、自分の知恵じゃできないんです! まあ、一つでたらめをいってみるがいい、自分一流のでたらめをいってみるがいい、そしたら、ぼくはそいつに接吻《せっぷん》してやる。自分一流のでたらめをいうのは、人まねで一つ覚えの真理を語るより、ほとんどましなくらいです。第一の場合には人間だが、第二の場合には、たかだか小鳥にすぎない! 真理は逃げやしないが、生命はたたき殺すこともできる。そんな例はいろいろあります。ところで、われわれは今どうです! われわれはすべてひとりの例外もなく、科学、文化、思索、発明、願望、理想、自由主義、理性、経験、その他いっさい何もかも、何もかも、何もかも、何もかも、何もかもが、まだ中学予科の一年級なんです! 他人の知識でお茶をにごすのが楽でいいもんだから――すっかりそれが、なれっこになってしまった! そうじゃありませんか? ぼくのいうとおりじゃありませんか!」ふたりの婦人の手を握って締めつけながら、ラズーミヒンは叫んだ。「そうじゃありませんか?」
「ああ、どうしましょう、わたし、よくわかりません」かわいそうにプリヘーリヤはこうつぶやいた。
「そうですわ、そうですわ……もっとも、あなたのおっしゃることに、みながみな賛成じゃありませんけど」とアヴドーチャは口を添えた。と、たちまちあっと悲鳴を上げた。彼がこんどというこんど、思いきり強く彼女の手を握りしめたので。
「そうですって? あなたはそうだとおっしゃるんですね?さあ、こうなるとあなたは……あなたは……」と彼は歓喜のあまり叫びを発した。「あなたは、善と、純潔と、英知と、そして……完成の源泉です! お手をください、お手を……あなたもどうぞお手をください。ぼくはここで今すぐ、ひざまずいてあなたがたの手に接吻したいのです!」
 彼はいきなり歩道のまん中にひざをついた。いいあんばいに、その時あたりにはだれもいなかった。
「まあ、よしてください、後生ですから。ほんとうにあなたは何をなさるんです?」とプリヘーリヤはことごとくどぎもを抜かれて、こう叫んだ。
「お立ちなさいよ、お立ちなさいってば!」とドゥーニャも笑いながら、同時に気をもむのであった。
「いや、だめですよ、お手をくださらないうちは! そうです。そうです。これでたくさん。ほら、立ちました。行きましょう! ぼくは不幸にもばかな、まぬけな男です。ぼくはあなたがたに価しません。このとおり酔っぱらって、それを恥じ入っています……ぼくはあなたがたを愛する資格はありませんが、あなたがたの前に跪拝《きはい》すること――これはまったくの畜生でないかぎり、各人の義務です! だからぼく跪拝しました……や、もうあなたがたの下宿です。このこと一つだけでも、さっきロージャがあのルージンを追い出したのは、当然な処置なんです! よくもあの男は恥ずかしくもない、あなたがたをこんな宿へ入れられたもんだ! こりゃもう恥さらしですよ! ここはどんな者が出入りするところか、ごぞんじですか? だって、あなたは花嫁じゃありませんか? あなたは花嫁でしょう、そうでしょう? だから、ぼくはあえていいますが、あなたの未来の夫は、これで見ると卑劣漢ですよ!」
「もし、ラズーミヒンさん、あなたはわれを忘れてしまいましたね……」とプリヘーリヤはいいかけた。
「そうです、そうです、おっしゃるとおりです。ぼくは前後を忘れていました。面目ありません!」とラズーミヒンはわれにかえった。「しかし……しかし……こんなことをいったからって、あなたがたはぼくをおおこりになっちゃいけません! ぼくは誠心誠意いってるんで、けっしてその、なんです……ふむ! それだったら陋劣《ろうれつ》な話です。手っとり早くいえばですね、何もぼくがあなたに……その……ふん……いや、もうよしましょう、必要がない、なぜだかそのわけはいいますまい、勇気がないです!………とにかく、われわれ一同はさっきあの男がはいって来たときに、これはわれわれの仲間じゃないな、と悟ったんです。それは何もあの男が床屋へ行って、髪をうねらせて来たからじゃありません。またあの男が急いで自分の知識をひけらかそうとした、そのせいでもありません。要はあの男がまわし者で山師だからです。ジュウでまやかし者だからです。それはちゃんと見えすいています。あなたがたはあれを賢いと思っておられますか? どうして、あれはばかですよ、ばかですとも! ねえ、あんな男にあなたの配偶たる価値がありますか? ああ、なんということだ! ねえ、わかってください」もう部屋へ通ずる階段を上りながら、彼はだしぬけに立ち止まった。「いまぼくのところにいる連中は残らず酔っぱらいですが、その代りみな正直です。われわれはでたらめをいいます。だってぼくもやはりでたらめをいうんですからね。しかし、そのうちいつか真実に達することもありますよ。われわれは潔白な道に立ってるんですからね。ところが、ルージンは潔白な道に立っていません。ぼくはいま家にいる連中をくそみそに罵倒したけれど、でもあの連中をひとり残らず尊敬しています。ザミョートフでさえ、ぼくは尊敬はしないが、愛していますよ。犬っころですからね! それから、ゾシーモフの畜生でさえそうです、正直で、自分の仕事をわきまえてるから……いや、しかし、もうたくさん、すっかりいうだけのことはいったし、許してもいただいた。ね、ゆるしていただいたんでしょう?そうで[#「しょう?そうで」はママ]しょう? さあ、まいりましょう。ぼくはこの廊下を知っていますよ、来たことがあるから。そら、あの三号室で、スキャンダルがあったんですよ……ところで、あなたがたはどこです? 何号です? 八号? じゃ、夜おやすみになるときは、ちゃんとかぎをかけて、だれもお入れにならないがいいですよ。十五分たったら、報告をもって帰って来ます。それからまた半時間たつと、ゾシーモフをつれて来ますからね。見ていらっしゃい! さよなら、ひと走り行って来ます!」
「ああ、ドゥーネチカ、これはどうなることだろうね!」とプリヘーリヤは不安げなおどおどした調子で、娘に話しかけた。
「安心してらっしゃいよ、お母さん」帽子とマントを脱ぎながら、ドゥーニャはそう答えた。「あの人はお酒の席からいきなり見えたらしいけれど、あれは神さまがわたしたちを助けによこしてくだすったんだわ。あのかたは頼りになる人よ、わたしうけ合うわ。それに、あのかたが今まで兄さんのためにしてくだすったことは、みんな……」
「でも、ドゥーネチカ、あの人が来てくれるかどうか、わかったものじゃないよ! どうしてわたしは、ロージャをおいて来る気になれたろう! ほんとに、ほんとに、あんなふうで会おうとは、思ってもみなかった! あの子のぶっきらぼうなことといったら、まるでわたしたちの来たのがうれしくないようなんだもの……」
 彼女の目には涙がにじんだ。
「いえ、それはちがっててよ、お母さん。お母さんは泣いてばかりいらしって、よくごらんにならなかったんだわ。兄さんは大病で、ひどく頭が乱れてらっしゃるのよ――何もかもそのせいよ」
「ああ、その病気がねえ! いったいどうなることだろう、いったいどうなることだろう! それに、お前にだってなんという口のききようだったろう、え、ドゥーニャ!」と母はいいながら、おずおずと娘の目をのぞき込み、その気持ちを読もうとした。けれど、ドゥーニャがロージャをかばうのを見て、これならもう兄を許しているにちがいないと、もう半分くらい安心していたのである。「でも明日になれば、あの子もきっと考え直すだろう、わたし確かにそう思うよ」あくまで相手の心を探ろうとして、こう言葉をそえた。
「ところが、わたしそう確信しているわ――兄さんは明日になっても、やっぱり、同じことをおっしゃるに相違なくってよ……あのことについてはね」とアヴドーチヤは断ち切るようにいった。それはもうむろん、一本さし込んだくぎなのであった。なぜなら、今プリヘーリヤが口に出すのを非常に恐れていた一つの点が、この中に含まれていたからである。ドゥーニャはそばへ寄って、母に接吻《せっぷん》した。こちらは無言のまま彼女を強く抱きしめた。それからラズーミヒンの帰りを不安な思いで待ちながら、そこへ腰をおろし、同じく期待のうちにひとりもの思いをつづけながら、腕を組み合わせて、部屋をあちこち歩いている娘のあとを、おずおずと目で追っていた。もの思いに沈みながら、こうしてすみからすみへと歩きまわるのが、アヴドーチヤのいつもの癖だった。で、母はいつもこういうときに、娘のもの思いを妨げるのを、なんとなく恐れていた。
 もちろん、ラズーミヒンが酔ったまぎれに思いもかけず、アヴドーチヤにはげしい愛情を燃え立たしたのは滑稽《こっけい》だったに相違ない。が、じっさいアヴドーチヤを見た多くの人は、ことにいま彼女が腕を組み合わせて部屋を歩きまわっている、うち沈んだもの思わしげな姿を見た多くの人は、ラズーミヒンの普段とちがった状態を酌量《しゃくりょう》するまでもなく、深く彼をとがめはしなかったであろう。アヴドーチヤはまったく目立って美しい娘だった――背が高くて、ほれぼれするほど姿がよく、しかもその中に強さがあり、みずからたのむところありげな気持ちがうかがわれた――それは一つ一つの動作に現われていたが、しかしけっして彼女のものごしから柔らかさと優美さを奪うようなことはなかった。顔だちは兄に似ていたが、彼女のほうは美人といってもいいくらいだった。髪は兄よりいくらか明るみのまさった、黒みがちの亜麻色をしていた。目はほとんど真黒で、プライドにみちた輝きを放っていたが、またそれと同時に、どうかすると瞬間的に、並みはずれて善良な表情になるのであった。色は青白かったが、病的な蒼白さではない。彼女の顔は新鮮みと健康に輝いていた。口はやや小さすぎるほうで、あざやかな赤い色をした下くちびるは、あごといっしょに心もち前へ出ていた――それがこの美しい顔に指摘される唯一の欠点であったが、でも、この顔に一種の特徴、とりわけ傲慢《ごうまん》らしいかげを添えている。顔の表情はいつも快活というより、むしろまじめなほうで、もの思わしげであった。その代り、この顔には微笑がまことによく似合った。楽しげな、若々しい、苦労のなさそうな笑いが、なんともいえないほど似合った! 熱烈で、あけっ放しで、単純で、律義で、大昔の豪傑のようにたくましい、しかも、かつてこういうものを見たことのない酔っぱらいのラズーミヒンが、ひと目で夢中になったのもむりではない。しかも機会が、まるでわざと膳立《ぜんだ》てしたように、初めて彼にドゥーニャを見せるために、兄に会った愛と喜びの美しい瞬間を与えたのである。彼はまた引きつづき、兄の不遜で無情な忘恩の命令を聞いて、彼女の下くちびるがふるえたのを見た――そこで、彼は自制力を失ったのである。
 もっとも、彼がさきほど階段の上で酔ったまぎれに、ラスコーリニコフに部屋を貸している変わり者のプラスコーヴィヤが、アヴドーチヤばかりでなく、母のプリヘーリヤにたいしてまで、彼のことで嫉妬《しっと》をおこすだろうと口をすべらしたのは、ほんとうのことなのである。プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナは、もう四十三になっていたが、その顔はまだ以前の美貌《びぼう》のなごりをとどめていた。そのうえ、気持ちの朗らかさと、感覚の清新さと、正直で純真な情熱を老年までも失わない婦人の常として、年よりもずっと若く見えた。ついでに、括弧《かっこ》という形でいっておくが、こうしたものを完全に保って行くのが、老後までも美貌《びぼう》を失わない唯一の方法である。彼女の髪はすでに白くなり、薄くなりかけて、放射状をした小じわが、もうだいぶん前から目のふちに現われ、ほおは心配と悲しみのためにこけて、干からびてはいたけれど、それでもこの顔はやはり美しかった。これはドゥーネチカの顔の肖像だった。ただし、それは二十年後のもので、そのうえ、下くちびるの表情を除外しての話である。彼女の下くちびるは娘のように前へ出ていなかった。プリヘーリヤは甘ったるい感じがするほどではないまでも、感じやすい、おくびょうな、おとなしい質《たち》だったが、それもある程度までである。彼女はたいていのことは人に譲ることもでき、同意することもできた。時としては、自分の信念に逆らうようなことすら譲歩した。けれど、いつも正義と、戒律と、信念の定まった境界があり、いかなる事情も彼女にそれを踏み越えさせることはできなかった。
 ラズーミヒンが帰ってからちょうど二十分たったとき、低いけれどあわただしいノックの音が二つひびいた。ラズーミヒンが引っ返したのである。
「はいりませんよ、そうしていられないから!」ドアが開かれたとき、彼はせかせかといった。「寝てますよ、それこそ正体なしに。ぐっすり、静かに寝ています。どうか十時間ばかり寝かせたいものですね。そばにはナスターシヤがついています。ぼくが行くまで、はなれないように、いいつけときました。こんどはゾシーモフを引っぱって来ます。あの男が報告しましょう。それからあなたがたもゆっくりおやすみなさい。へとへとにおなりになったようですね。精も根《こん》もないほど……」
 こういったと思うと、彼はふたりのそばを離れて廊下づたいにかけ出した。
「また、なんという気さくな、そして……頼もしい人だろう!」プリヘーリヤは無上にうれしくなって、こう叫んだ。
「どうやらいい人らしいわね!」やや熱のこもった調子でアヴドーチヤは答えた――またしても部屋の中をあちこちと歩きながら。
 かれこれ一時間ばかりすると、廊下に足音がひびいて、さらにノックの音が聞こえた。ふたりの女はこんどこそ十分に、ラズーミヒンの約束を信じて待っていた。案のじょう、彼はもうゾシーモフをつれて来たのである。ゾシーモフは即座に酒宴を見捨てて、ラスコーリニコフを見に行くことに同意した。しかし、ふたりの婦人のところへは、酔っぱらったラズーミヒンが信用できないので、だいぶ疑念をいだきながら、いやいややって来たのである。ところが、彼の自尊心はすぐ落ちつかされたのみならず、うれしくさえなってきたほどである。じっさい、自分が予言者のように待たれていたことを知ったからである。彼はかっきり十分しかすわっていなかったが、その間にプリヘーリヤをすっかり説き伏せて、安心させてしまった。彼は深い同情をこめて話をしたが、全体に控え目で、わざとらしいほどまじめだった。それは重大な対診席上における二十七歳のドクトルといった形である。そして、本職以外のことには、ひと言も余分の口をきかなかったし、ふたりの婦人と個人的な親しい関係を結びたそうな様子も、これから先も見せなかった。部屋へはいりぎわに、アヴドーチヤの光まばゆいばかりの美貌《びぼう》に気がつくと、そこにいる間じゅう、彼女のほうをいっさい見ないようにつとめ、ただプリヘーリヤにばかり話しかけていた。すべてこうしたことが、彼の心に無上の満足を与えたのである。病人のことについては、今のところきわめて順調にいっているといった。彼の観察によると、この患者の病気は、最近数か月間の物質的窮乏のほかに、なお二、三の精神的原因も伴っている。『つまりなんというか、いろいろ多くの複雑な精神上、物質上の影響や、不安や、危惧《きぐ》や、気苦労や、ある二、三の観念や……その他そういったものの産物』である。アヴドーチヤがかくべつ熱心に耳をすまし始めたのをちらと見ると、ゾシーモフはいっそうこのテーマを敷衍《ふえん》した。『何か多少発狂の徴候があるとか聞きましたが』というプリヘーリヤの心配らしい、おずおずとした質問に、彼は落ちついた隔てない微笑を浮かべながら、自分の言葉はやや大げさ過ぎたと答えた。もっとも病人には一種のイデー・フィックス(固定観念)というか、偏執狂の潜在を示すような、あるものが認められはするが――じつは、自分ゾシーモフは目下のところ、医学上とくに興味の深いこの方面にかくべつの注意をはらっているので――しかし、病人が今までずっと熱に浮かされたような状態だったことや、それから……それからもちろん、近親者の到着が彼を力づけ。気をまぎらして、よき影響を与えるだろうということも、考えに入れなければならない――『ただ新しい特殊な精神的衝動をさけることさえできたらですね』と彼は意味ありげにいいたした。それから立ちあがって、重みとあいそを兼ねた会釈《えしゃく》をして、ふたりの婦人の祝福と、燃えるような感謝と、哀願と、そのうえ求めないのにさし出されたアヴドーチヤの手に送られながら、彼は自分の訪問と、それにもまして自分自身にこの上なく満足して、部屋を出て行った。
「話は明日のことにしましょう。今夜おやすみなさい、これから、すぐぜひとも!」ゾシーモフといっしょに出かけながら、ラズーミヒンは念を押した。「明日はできるだけ早く、報告を持ってあがります」
「だが、あのアヴドーチヤ・ロマーノヴナは、なんてすばらしい娘さんだろう!」ふたりが外へ出たとき、ゾシーモフは、ほとんど舌なめずりしないばかりにいった。
「すばらしい? きさますばらしいといったな!」とラズーミヒンはほえるように叫んだかと思うと、ふいにゾシーモフに飛びかかって、のどに手をかけた。「もしきさまがいつか、ちょっとでもずうずうしいまねをしやがったら……いいか?わかったか?」相手のえりをつかんで小づきまわし、壁へ押しつけながらわめいた。「わかったか?」
「おい、放せよ、この飲んだくれめ!」とゾシーモフは身をもがいた。そして、相手が手を放してから、しばらくじっとその顔を見ていたが、急に腹をかかえて笑いだした。ラズーミヒンは両手をだらりと下げて、陰鬱な真剣に思い沈んだような顔をしながら、彼の前に立っていたのである。
「むろん、おれはまぬけだよ」雨雲《あまぐも》のように陰鬱な顔をして、彼はこうくりかえした。「しかし……きみだってやっぱり……」
「いや、ちがうよ、きみ、けっしてやっぱりじゃない。ぼくはそんな妄想《もうそう》は起こさないからね」
 彼らは黙って歩いた。やっとラスコーリニコフの下宿近くまで来たとき、ラズーミヒンが恐ろしく気づかわしそうな様子で、急に沈黙を破った。
「ときに」と彼はゾシーモフにいった。「きみは愛すべき若者だが、しかしきみには、いろんなけがらわしい性質以外に、まだ女好きというやつがある。しかもとりわけ醜悪なほうだ。ぼくは知ってるよ。きみは神経質で、ひ弱な、いくじなしだ。気まぐれやだ。あぶらぶとりにふとってきて、節制なんか微塵《みじん》もできやしない――これはもう醜悪と呼ばれるべきだ。だって、かならず醜悪におちいるにきまってるんだからね。きみはすっかりからだを甘やかしてしまってるんだ。忌憚《きたん》なくいうが、そんなことをしていて、どうしてりっぱな献身的な医者になれるか、ぼくにはすこぶる疑問だよ。羽根ぶとんなんかに寝て(医者がだぜ!)それで夜中に患者のために起きて行く……ところが、三年もたつと、きみは患者のために起きるようなことはなくなるよ……ちぇっ、いまいましい、問題はこんなことじゃない。問題はこうだ。きみは今夜|主婦《かみ》さんの部屋へ泊まるんだぜ(ぼくむりやりにあの女を説きつけたんだ!)そしてぼくは台所で寝る。それこそきみにとって、あの女と親しく接近する絶好の機会だ! なかなかきみが考えているような女じゃない! そんなところは、これっぱかりもありゃしないよ……」
「ぼくは何も考えてやしないよ」
「あれは、きみ、はにかみやで、無口で引っ込み思案で、そのうえ驚くばかり純潔心を持ってるんだ。しかも、それらいっさいに、かてて加えて――悩ましいため息をつきつき、ろうのように溶けちゃうほうだからね! きみ、この世にありとあらゆる悪魔にかけて頼むが、あの女からぼくを救ってくれんか! じつに一風かわったおもしろい女だぜ! 礼はする、誓ってするよ!」
 ゾシーモフはいっそうおかしそうに、からからと笑いだした。
「ちぇっ、すっかり酔いがまわりやがって! いったい、なんだってぼくがあの女を?」
「だいじょうぶ、大してめんどうはないよ。何かいいかげんなことをでれでれいってりゃいいんだ。ただそばにいてしゃべってさえいりゃいいんだ。それにきみは医者だから、何かの治療を始めてやるんだな。だいじょうぶ、後悔するようなことはないよ。あいつのところにゃピアノがある。きみも知ってるとおり、ぼくは少しばかりぼろぼろ弾けるんだ。ぼくは『熱き涙に泣きぬれて』という純ロシヤふうの歌を知ってる……あの女は純粋なのが好きでね――つまり、そもそも歌から始まったのさ。ところが、きみはピアノにかけたら、ルビンシュタインそこのけの名手じゃないか……だいじょうぶ、後悔するようなことはないよ……」
「じゃなにかい、きみはあの女に何か約束でもしたんだね?正式の[#「んだね?正式の」はママ]契約書でも書いて? 婚約くらいしたのかもしれないな?………」
「どうして、どうして、そんなことはぜんぜんない! それに、あれはけっしてそんな女じゃないよ。あの女にはチェバーロフが……」
「そんなら、ただ捨てちまったらいいじゃないか!」
「ただ捨てるわけにはゆかないよ!」
「いったいなぜ捨てられない?」
「いや、その、なんだかそうはできないんだ、それっきりさ! そこには、きみ、なんだかこう、引きずり込まれるようなところがあるんだ」
「じゃ、なぜきみはあの女を迷わせたんだい?」
「いや、ぼくはちっとも迷わせなんかしないよ。ことによると、ぼくこそもちまえのばかな性分で、迷わされたかもしれないくらいだ。だが、あの女から見ると、きみだってぼくだって絶対に同じことだよ。ただだれかがそばにいて、ため息をついてさえいりゃいいのさ。そこには、きみ……さあ、なんといったらいいかなあ。そこには――うん、そうだ、きみは数学が得意だろう。そして、いまでもまだやってるだろう、ちゃんと知ってるよ……そこで、きみがあいつに積分計算を教えてやるんだ。ほんとうだ、けっして冗談じゃない。まじめな話なんだよ。あの女にはなんだって同じだもの。あの女はきみを見て、ため息をついてりゃいいのさ。そうして一年くらいつづけるんだ。ぼくなんかもいつだったか、だらだらと二日もぶっ通しで、プロシアの上院の話をしたもんだ。(だって、あの女と何を話したらいいんだい?)――それでも、あの女はただため息をつきながら、ぼうっとなってるんだ! ただ恋の話だけはしかけないがいいよ。ふるえあがるほど、はにかみやだからね。――そばが離れられんというような顔だけしていたまえ――それでたくさんなんだ。とにかく、めっぽう居ごこちがいいよ。まるでうちにいるも同然だ――読んだり、すわったり、寝たり、書いたりしていたまえ……接吻だってしてもいい、慎重にやりさえすれば……」
「いったいなんのためにあの女がぼくにいるんだ?」
「ええっ、どうしてもうまく説明ができない! ねえ、こう なんだよ。きみたちふたりは互いにぴったりはまってるよ! ぼくは前にもきみのことを考えたくらいだ……どうせきみは、けっきょくそういうことで終わる人間だよ! してみる、と、遅かろうが早かろうが、同じことじゃないか? あそこには、きみ、なんていうか、羽根ぶとん的要素が充満してるんだよ――いや! 単に羽根ぶとん的要素ばかりじゃない! あすこには人を引きずり込むようなところがある。あすこは世界のはてだ、錨《いかり》だ、静かな避難所だ、地球のへそ[#「へそ」に傍点]だ、三頭のくじらにささえられているこの世の基礎だ、プリン(薄焼きのパンケーキ)のエッセンスだ、油っこいクレビャーカ(魚製菓子パン)だ、晩のサモワールや、静かなため息や、暖かい女物の普段着や、うんとたいた暖炉や、そういうもののエッセンスだ――まあ、いってみれば、きみは死んでいると同時に、また生きてもいる、一挙両得というもんだ! いや、きみ、すっかりだぼらをふいてしまったなあ。もう寝る時刻だ! だがねえ、ぼくは夜中にときどき起きて、病人を見に行くから。しかし、なんでもない、くだらんことだ。だから、きみも心配しなくていいよ。まあ、もしなんなら、一度ぐらい行ってみてくれ。しかしね、もし少しでもうなされてるとか、熱があるとか、そんなふうのことに気がついたら、さっそくぼくを起こしてくれ。もっとも、そんなことあるはずがないけれど……」

      2

 心づかいでいっぱいになった真剣な気分で、ラズーミヒンは翌朝七時すぎに目をさました。新しい予期しなかったやっかいな問題がいろいろと、この朝おもいがけなく彼の身辺に起こった。いつかこんなあんばいで眠りからさめることがあろうとは、以前考えてもみなかったのである。彼は昨日のことを、一つ一つ細かい点まで思いおこして、自分の身に何か容易ならぬことがもちあがったのをさとった。今までかつて知らなかった、これまでのものとは似ても似つかぬ、ある一つの印象を感受したのを自覚したのである。と同時に、彼は自分の脳裏に燃え始めた空想の、絶対に実現し難いことも意識した――それはあまりにも実現し難いことなので、恥ずかしくさえなってきた。で、彼は急いであの『のろうべき昨日の日』以来残っている目前の問題と疑惑に移っていった。
 彼にとって何よりも恐ろしい思い出は、自分が昨日たまらなく『卑屈ないまわしい』行為をした、ということである。それは単に酔っていただけではなく、処女の前でその頼りない境遇を利用して、愚かにも気早な嫉妬《しっと》から、彼ら同士の関係や内情はおろか、当人の人物さえよくも知らずに、婚約の夫を罵倒したことである。ああも早計に軽はずみに、彼の人物批評をするいかなる権利を自分は持っていたのか? だれが自分を審判者に頼んだか? またアヴドーチヤのような純潔な処女が、金のためにつまらぬ男に身をまかせるはずがない! してみれば、あの男にも美点があるわけだ。が、あの下宿は? いや、あれがあんな家だということを、どうしてあの男が知っていなければならないのだ? しかも、彼氏はほんとうの住まいを準備しているというのではないか……ちぇっ、じつになんという卑劣なことだ! 酔っていたからって、それがなんの弁解になろう? それはかえって、いっそう自分の人格を下げる愚劣な一言いわけだ! 酒中に真ありというが、その真実があのとおりすっかりさらけ出てしまったのだ。『つまり、自分の嫉妬深いがさつ[#「がさつ」に傍点]な心のきたなさを、すっかりさらけ出してしまったのだ!』いったいこんな空想が、たといいくらでも、彼ラズーミヒンに許さるべきことだろうか? いったい自分は――酔っぱらいのあばれ者は、あの昨日のだぼら吹きは、ああした処女とくらべて、いったい何するものぞ?『こんな無恥滑稽《むちこっけい》な対照がありうるだろうか!』ラズーミヒンはこう考えると、火が出そうなほどまっ赤になった。と、ふいにちょうどこの瞬間、まるでわざとあてつけるように、きのう自分が階段の上に立って、主婦がアヴドーチヤのことで嫉妬を起こすだろうと、ふたりに話した時のことが、まざまざと思い出された……これはもう堪えられぬことだった。彼はこぶしをふり上げて、力まかせに台所の暖炉をなぐりつけ、自分の手にも傷をつけるし、煉瓦《れんが》まで一つ打ち落とした。
『もちろん』しばらくしてから、一種自卑の感情にかられながら、彼はつぶやいた。『もちろん、今となっては、このさんざんな不始末は清めようも、償いようもない……とすれば、このことはもう考えるまでもない。だから、なんにもいわずにふたりの前へ出て……自分の義務だけをつくすんだ……やっぱりなんにもいわずに……謝罪もせず、何ひとついわないことだ……もう、もちろん、今は希望もすべて滅びたのだ!』
 にもかかわらず、彼は服をつけるとき、いつもより念入りに自分の衣裳をあらためた。着がえなどは一枚もなかったし、またあったにもせよ、彼はそれを着なかったろう――『いじにだって着やしない』しかし、いずれにしても、わざと礼儀を無視したようなかっこうや、うすぎたないだらしないかっこうですましているわけにはいかない。彼とても、他人の感情を侮辱する権利は持っていないはずだ。まして、その他人が、自分のほうから彼を必要とし、自分のほうから彼を招いているのであってみれば、なおさらのことである。彼はていねいに服をブラシで清めた。ワイシャツは普段から、いつも小ざっぱりとしたものを着ていた。この点では、彼はとくにきれい好きだったので。
 この朝、彼は念入りに顔を洗った――ナスターシヤのところに石けんがあったので、髪から首、とりわけ両手をていねいに洗った。それから、ごわごわしたひげをそろうかそるまいかの問題になったとき(プラスコーヴィヤのところには、亡夫ザルニーツィンのかたみに保存されている、上等の剃刀《かみそり》があった)、その問題をえらい剣幕で否定してしまった。『なに、このままにしておけ! それこそまったく、おれが顔をそったのは……なんのためだと思われちゃたまらん……いや、きっとそう思うにちがいない! 天地がひっくり返ったってそるものか!』
『それに……それにかんじんな問題は、おれががさつ[#「がさつ」に傍点]で、じじむさくて、ものごしが居酒屋じみてることだ。それに……それに、かりに、おれが自分をほんの少しばかりでも、人間らしい人間だと承知しているにもせよ……人間らしい人間だってことが、いったいなんのじまんになるんだ? 人間はだれしも人間らしい人間でなけりゃならない。それどころか、もっと気のきいたのでなくちゃならん、それに……なんといっても(おれはそれを覚えてる)、おれにはちょっとした変なことがあった……なにも破廉恥《はれんち》というほどじゃないが、しかしそれでも!………ところで、腹で考えたことに至ってはたいへんだ! ふん……これを全部アヴドーチヤ・ロマーノヴナと並べて見せたらどうだろう! ええっ、くそ! かまうものか! なに、わざときたならしい、あぶらじみた、居酒屋式なかっこうをしてやれ。平気だい! これ以上のふうだってしてやるぞ!』
 彼がこうした独白を並べているところへ、プラスコーヴィヤの客間に泊まったゾシーモフがはいって来た。彼は家へ帰りがけに、ちょっと病人をのぞいて見ようと、急いでいるところだった。ラズーミヒンは、病人が野ねずみのように寝ていると告げた。ゾシーモフは、ひとりでに目のさめるまで起こさないように指図をした。そして、十一時すぎにまた来ると約束した。
「ただ家にさえいてくれればいいんだが」と彼はいいたした。「ちぇっ、いまいましい! 自分の患者さえままにならないんだからな、これでどう治癒のしようがあるってんだ!ときに[#「てんだ!ときに」はママ]、きみ知らないかい――こっちから[#「こっちから」に傍点]ふたりのところへ出向くのか、それともふたり[#「ふたり」に傍点]がここへ来るのか?」
「ふたりのほうだ。と思うな」と質問の意味を察して、ラズーミヒンは答えた。「そして、もちろん、内輪の話が始まるだろう。ぼくははずすよ。しかし、きみは医者だから、ぼくよりよけい権利があるわけだ」
「ぼくだって坊主じゃないからね。来たら帰るよ。あの人たちのほかにも、用事はたくさんあるんだ」
「ぼくひとつ気になることがあるんだよ」と眉をひそめながらラズーミヒンはさえぎった。「きのうぼくは酔ったまぎれに、みちみち歩きながら、やつにいろんなばかなことをしゃべってしまったんだ……いろんなことを……その中でね、やつに……発狂の傾向がありはしないかと、きみが心配しているということまで……」
「きみはきのう婦人連にまで、そのことをしゃべってしまったね」
「いや、ばかげていた、自分でもつくづくそう思うよ! なぐられても文句はない! だが、どうなんだね、きみはじっさい、それについて、確たる考えがあったのかね」
「くだらない話だといってるじゃないか。確たる考えもなにもあるもんか! きみのほうこそ、ぼくを初めてやつのところへ引っぱって行ったとき、やつのことを偏執狂のように話して聞かせたじゃないか……それに、ついきのうも、ぼくらは、たき火に油をかけたようなもんだ、というより、むしろきみがあんな話をしたからさ………ペンキ屋のことなんか。当人がそのために気が変になったかと、思われるくらいのところへ、あんな話はちと乱暴だったぜ! もしあの時ぼくが知ってたら――警察署であった騒ぎや、そこでつまらないばか野郎があんな嫌疑《けんぎ》をかけて……侮辱したことを、正確に知っていたら! まったく……きのうあんな話をさせやしなかったよ。じっさいこの偏執狂ってやつは、一滴の水を大海ほどに考えたり、ありもしない妄想《もうそう》をまざまざと事実に見たりするものだからな……ぼくの覚えてるかぎりでは、きのうのザミョートフの話を聞いてから、はじめて事実の真相が半分くらい明瞭《めいりょう》になった。いや、なにもぐずぐずいうことはないさ! ぼくは、げんにある一つの場合を知っている。四十男のヒポコンデリイ患者がね、八つになる男の子が食事のたんびに浴びせる嘲弄《ちょうりょう》に堪えかねて、その子供を斬り殺したという話さ。ところが、こんどの場合は、みすぼらしい姿に落ちぶれて、病気が起こりかけていた時に、高慢な警察官があんな嫌疑をかけたんだからね! しかも、相手は恐ろしく気の立ってるヒポコンデリイ患者でさ! そのうえ気ちがいじみるほど自尊心のはげしい男だからたまらない! もしかすると病気の出発点は、ぜんぶ、そこにあるのかもしれないよ!まあ、どうでもいいや! ときにあのザミョートフって男は、じつに愛すべき小僧っ子だね。ただその……きのうあれをすっかりぺらぺらしゃべってしまったのには困るよ。どうも恐ろしいおしゃべりだ!」