京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

二回目の公開質問状から17日目

朝日新聞毎日新聞京都新聞、埼玉県さいたま市での取材記録はいまだに書かれていない。なぜ?
わたしの公開質問状は、さいたま市での取材記録がどう書かれるか、を気にして書いたものである。だれでもわかることだが。直接対応があるなどとは特に考えていなかった。とにかく、とりたくなかったが、言質をとったことになる。
 
Hという医師の発言。なぜわたしがこの発言を引用したのか、意味がわかる人はすぐわかる。

な話だけど、世界で一人者になろうとしたらオンリーワンかナンバーワンですよ。医学の世界でナンバーワンになるのはなかなか難しい。だけどオンリーワンっていうのは、人がしていないことをすればなるわけですよ。水俣病なんて、あんまりみんなやっていないからね。だから水俣病を一生懸命やったら、これはすぐ世界的にオンリーワンですよ、有名だから。売名行為でも何でもいいんですよ、とにかくやってくれれば。

どこにこの件をもっていこうか。

ロシア・Достое́вский地域での業務日記 70日目 校正作業の一時中断のおしらせ

校正作業をしている学生から、休みなしに毎日作業すると集中力がおちるようだ、と言われたので、相談の結果、70日目で一度中断することにした。一番さけるべきことは、校正作業の質がおちることだ。
1か月以内に再開します。
学生に払う、のこり30日分の給料は、前払いすることにしました。

伏見事件から一年後、事件についてのメモ(追記あり)

[B! 事件] 京アニ放火事件 容疑者「小説を盗まれた」作品名をあげて供述 | NHKニュース

供述の信用性に疑わしさが残る。これまでの報道では、ほぼまったく固有名詞が出てこなかったから。/事件から一年間立っても、実行犯の、犯行前一年間の信用性の高い資料がでてこない、ということか。

 
 
 
追記
それにしても、メディア批判というのはいったいなんだったのだろうか? 実行犯の2019年7月13日以前の確実な情報がほぼまったく報道されないという状況になって、それがほとんどだれにも気がつかれていない、という状況。メディア批判、メディア分析が本物ならば、気がつくぐらいのことはすぐできるはず。
関係ありそうなこと。インターネットが紙の本の内容を正確に書き写すのにかかる時間と費用についてのデータはほとんどない。必要かつ基本的なデータのはずである。インターネットがはじまって、約三十年間。OCRはまだともかく、校正にかかる時間のデータがどこかにあるはずなのだが。

京都新聞、朝日新聞、毎日新聞に対して、2回目の公開質問状をだしました(追記あり)

京都アニメーション放火殺人事件の報道についての2回目の公開質問状

以前、公開質問状を出したものです。
1回目の公開質問状の返事はまだありません。なので、質問を1つにさせていただきます。

京都新聞社は、京都アニメーション放火殺人事件について、この1年間、いつ、どこで、だれに、どんな取材をされたのでしょうか?
具体的にお答えください。
まだ答えられないならば、その理由を具体的にお答えください。

2020年7月18日前後の報道を待っています。

文章を短くした。
以下の方法で送った。
「読者に応える」みなさんの疑問や困りごとをお寄せください。
朝日新聞:お問い合わせ(新聞、催事など)
ご意見・お問い合わせ | 毎日新聞社
 
 
・追記
これは書いておくべきだろう。
地下鉄サリン事件から25年後、『オウム法廷』全13巻の電子テキスト(5.3MB)をつくったので、朝日新聞社に連絡をとった。しかし、朝日新聞社は、著作権者への連絡をとったのかどうかすら怪しい。以下の記事に、問い合わせの経緯を書いておいた。
2020年3月14日から同年3月28日までの、朝日新聞への問い合わせの経緯 - オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会
いま考えたら、朝日新聞は、わたしのことをただの一般人だとおもって、見下してるんじゃないのか。もしそうでなかったら、「著作権者と連絡をとった結果、こう言っている」ぐらいのことは連絡してくるはずだ。
公平のために書いておくが、現在、いまもっている電子テキストは誤字脱字がたくさんのこっている。それを受け取れない、というのならわたしも理解できる。誤字脱字をなくせばいいのだから。しかし、最初から受け取る意思がない、というのは問題じゃないのか?
はっきりいうが、わたしは怒っている。これから何をするか、まだ決めていないが。

ロシア・Достое́вский地域での業務日記 60日目

2020年7月24日まで、いそがしくなる。
そこで、『カラマーゾフの兄弟』第四篇をすぐに公開することにした。
以下の記事にリンクを書いています。
コロナ感染拡大によって生活苦においちった学生1人を支援しています(期間限定公開)(追記だらけです) - オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会

これで、『カラマーゾフの兄弟』すべて電子化を終えた。あとは校正を終わらせるだけ。
これが一番時間がかかるのだが。
連続90日間しかできなかった。

インターネット文化が正しい発展をしているならば、わたし以外のだれか『アンナ・カレーニナ』と『カラマーゾフの兄弟』を電子化していたはずだ。20万円以下しか必要でないのだから。

『カラマーゾフの兄弟』P162-166   (『ドストエーフスキイ全集』第12巻(1959年、米川正夫による翻訳、河出書房新社))[挑戦60日目]

ャのいわゆる『あの恐ろしい日』のことを、グルーシェンカに話したかもしれん。ああ、そうだ、話し化、やっと思い出したよ! やはりあの時モークロエ村で話したんだ。何でも、おれはぐでんぐでんに酔っ払っていて、まわりではジプシイの女どもが歌をうたってたっけ……しかし、おれは声を上げて慟哭したんだ。そのとき自分から声を上げて慟哭しながら、膝をついてカーチャの面影に祈りをした、そしてグルーシェンカもそれを了解してくれたよ。あれはそのとき一切の事情を了解して、確か自分でも泣いたんだよ……しかし、こんなことを言ったって仕方がない! 今となっては、ああいうふうになるのが当然だったんだろうよ! あのとき泣いておきながら、今日は……今日は……『匕首《あいくち》を心臓へぶすり』か! それが女の十八番《おはこ》なんだよ!」
 彼は伏し目になって考え込んだ。
「そうだ、悪党だ! 疑いもなく悪党だ!」だしぬけに彼は沈んだ声でこう言った。「泣いたって泣かないたって同じこった、やはり悪党に相違ない! どうかあの女にそう言ってくれ、もしそれで腹が癒えるなら、悦んで悪党の名前をちょうだいするってな。しかし、もうたくさんだ、何も喋ることなんかありゃしない! 面白い話は少しもないのだからなあ。お前はお前の道を行きな。おれはまたおれの道を行くから。もういつかぎりぎり決着という時の来るまで、しばらく会いたくないよ。さようなら、アリョーシャ!」
 彼は固く弟の手を握りしめると、依然として伏し目になったまま首を上げないで、まるでその場からもぎ放されたように、急ぎ足で町のほうへ歩きだした。アリョーシャは、兄がこうだしぬけに行ってしまったとは、信じることができないで、そのうしろ影を見送っていた。
「ちょっと待ってくれ、アレクセイ、も一つ白状することがある、しかし、お前一人だけにだぞ!」とドミートリイは突然ひっ返して言いだした。「おれを見ろ、じいっと見ろ。いいか、そら、ここで、ここで恐ろしい破廉恥が行われてるのだ。」(『そらここで』と言った時、ドミートリイは奇妙な顔つきをして、自分の胸を拳で叩いてみせた。それはちょうど、胸の上に破廉恥がひそんでいる、――かくしの中に納められているか、それとも、何か縫い込んで頸にぶら下げてある、――とでもいうようなふうつきであった)。お前の知ってるとおり、おれは悪党だ、極めつきの悪党だ! しかし、おぼえておいてくれ、今、現在ここに、おれがこの胸の上に着けている破廉恥とくらべては、いかなる陋劣なことだってものの数にも入りゃしない。この破廉恥は、いま現に遂行せられようとしているのだが、これを中止しようと遂行しようと、今のところおれの自由なんだ、いいか、おぼえとってくれ! だが、結局、おれは中止しないで遂行するに相違ない、それもやはり心得ておってもらおう。さっきおれは何もかも一切ぶちまけたけれど、これ一つだけ話さなかった。なぜって、お前、おれだってそうそう面の皮が厚くないからなあ! ところで、おれはまだ思いとまることができる。思いとまったら、あすにでも失墜した名誉を、ちょうど半分だけ取り返すことができるのだ。しかし、おれは思いとまるまい、そしてこの企らみをすっかり仕おおせるに相違ない。まあ、お前、証人になってくれ、おれは前もって意識してこう言っておくから! 滅亡と暗黒だ! いや、説明することはいらん、そのうちに自然とわかるよ。じめじめした横町と極道女か! じゃ。あばよ! おれのことなんか神様に祈らんでくれ、おれにはそれだけの値うちがない。それに必要もない、ぜんぜん必要がないのだ……おれはそんな要求を少しも感じないのだ! あばよ!………」
 彼はふいに駆け出して、今度こそはほんとに行ってしまった。アリョーシャは僧院さして歩きだした。『一たいどうしたことだろう、もうこれっきり、兄さんには会えないのだろうか? 兄さんは何を言ってるんだろう?』という考えが奇妙に彼の頭に浮んだ。『明日ぜひ兄さんに会わなくちゃならない。無理にでも捜し出さなくちゃ、一たい兄さんは何を言ってるんだろう?』

 彼は僧院を迂回して松林を通り抜け、まっすぐに庵室をさして進んだ。庵室ではこの刻限になると誰も入れないことになっていたが、彼はすぐに戸を開けてもらった。長老の部屋へ入ったとき、彼の心臓はおののいた。『何のために、一たい何のために自分はここを出て行ったのだろう? また何のために長老は自分に「娑婆」へ出ろとおっしゃったのだろう? ここは静寂と霊気に充ち満ちているのに、あそこは混乱と暗黒の世界で、中へ入ったらたちまち方角を失って、途方にくれてしまわなければならぬ……』
 庵室の中には、聴法者のポルフィーリイとパイーシイ主教とが居合せた。主教はきょう一時間おきくらいに、ソシマの容体を訊きにやって来たが、長老の病気は次第次第に険悪になっていった。毎日のしきたりになっている、同宿を相手の晩の談話さえも、今日はできなかったほどである。これを聞いたアリョーシャはぎくりとした。いつも晩の勤行の後、やがて訪れる夜の安息の前に、寺内の僧侶一同が長老の庵室へ集って来て、めいめい今日一日のうちに犯した罪や、罪ふかい空想、思想、誘惑、さては同宿の間に生じたいさかいなどを、懺悔するのであった。中には膝をついて告白するものさえあった。長老は、それを一々解決し、和解し、訓戒し、改悛をすすめ、さて祝福をして退出させるのであった。この同宿の懺悔に対して、長老制度の反対者は攻撃の火の手を上げ、これは秘密な懺悔の神聖をけがすもので、ほとんど涜神罪と言ってもいいくらいだなどと、まるで見当ちがいのことを言いだした。そして、一時は僧正管区長にまで問題を持ち出して、こうした懺悔は単によい結果をもたらさないばかりか、かえって目に見えて人々を罪悪と誘惑へ導くばかりだ、などと騒いだこともある。
 実際、同宿の多くは長老のもとへ集るのを苦痛に感じて、いやいやながらやって来るのであった。なぜなら、大ていのものは、叛旗をひるがえす高慢な人間だなどと思われたくなさに、出席するからである。また、こんな話もあった。同宿の中には懺悔の集りへ出る前に、おたがい同士あらかじめ打ち合せをして、『おれは今朝お前に腹を立てたというからお前うまくばつを合してくれ』などといったふうに話の種を拵えて、自分のお務めをすまそうとするものもあった。事実こういうことがときどき起るのは、アリョーシャも承知していた。また彼は次のようなことも知っていた。ほかでもない、苦行者が肉親のものから受け取った手紙さえ、まず第一に長老のもとへ運ばれて、受信人よりもさきに長老が封を切って通読するという習慣に非常な不平をいだいているものがある。もちろん、規定としては、これらはすべて任意の服従と救済を目的とする教訓の名の下に、自由に誠実に行わるべきであったが、実際においては、時としてきわめて不誠実などころか、むしろわざとらしい技巧を弄して行われることがあった。
 けれど、同宿の中でも年長の経験ふかい人々は、『苦行のために真心をもってこの僧院の壁の中へ入って来た人には、服従や難行が疑いもなく、救霊の力を持っていることがわかって、そういう人たちには偉大な利益をもたらすに違いない。ところが、それを苦に病んで不平を鳴らすような人は、僧侶でないと同じだから、僧院などへやって来る必要はなかったので、こういう人のいるべき場所は俗世間の中にある。罪悪や悪魔は俗世間のみならず、僧院の中でもやはり防ぎきれるものでない、したがって、罪悪を黙許する必要はさらさらないのだ』とこんなふうに考えて、自説を主張するのであった。
「ひどく衰弱されてな、嗜眠状態におちいっておいでだ」とパイーシイ主教はアリョーシャを祝福した後、こう囁いた。「もうお目をさまさすのさえむずかしいくらいだ。もっとも、そんな必要もないがな。さきほど五分間ほど目をさまされて、この祝福を同宿の人に伝えてくれと頼まれた。そして、同宿の人には、夜祈禱のとき自分のために祈ってもろうてくれ、とのご伝言であった。明日はもう一度ぜひ聖餐を受けたいと言うておられる。それからな、アレクセイ、お前のことも思い出されて、もう出て行ったかと訊かれるから、いま町に行っておりますと返事をすると、『わしもそうさせようと思うて祝福してやったのだ。あれのいるべき場所はあそこだ、当分ここにおらんほうがよい』とこうお前のことを言われたぞ。それがいかにも愛に富んだ、心配らしい言い方であった。お前は、自分がどんな光栄を受けたかわかるかな? ただし、長老がお前の身の上について、当分のあいだ俗世間へ出ておれと言われたのは、どういうわけであろう? 大方お前の運命に関して、何か見抜かれたことがあるのだろう? しかし、アレクセイ、たとえお前が俗世間へ帰るとしても、それは長老がお前に授けて下さった一つの服従の義務と見るべきで、決して空しい俗世間の歓楽や、軽薄な行為のためではない。このことをよく覚えておるのだぞ……」
 パイーシイ主教は出て行った。長老がよしや一日二日生き延びるとしても、やがてこの世を去ろうとしているのは、アリョーシャにとって疑いもない事実であった。アリョーシャはあす父を初めとして、ホフラコーヴァ親子、兄、カチェリーナなどと面会の約束はしたけれど、決して僧院の外ヘー歩も出ないで、長老の逝去までそのそばにつき添っていよう、と熱情をこめて固く決心したのである。彼の胸は愛情に燃え立ってきた。それと同時に、彼はたとえしばらくの間でも町へ出て、僧院へ残した人を忘れえた自分を、強く咎めずにはいられなかった。事実、世界じゅうの誰にもまして愛している人が、いまわの床に打ち臥しているのではないか! 彼は長老の寝室へ入ると、そのまま跪いて、眠れる人に向って額が地につくほど礼拝した。長老はほとんど耳に入らぬくらい穏かに呼吸しながら、静かに身動きもせず眠っていた。その顔はきわめて平静であった。
 次の間へ引っ返すと(それは今朝、長老が客を迎えた部屋であった)、アリョーシャはただ靴を脱いざぽかりでほとんど着替えもせず、固い革張りの狭い長椅子の上に横になった。彼はもうずっと前から毎晩枕だけ持って来て、この椅子の上で寝ることにきめていた。けさ父が大きな声で言った例の蒲団は、もうとうから敷くのを忘れてしまっていた。彼はただ自分の法衣を脱いで、これを毛布の代りに上からかけるだけであった。しかし、就眠の前に、彼は跪いて長いこと祈禱をした。その熱心な祈禱で、彼が神に乞うたのは、自分の惑いを解くことではなかった。彼はただ、以前神に対する讃美を唱えたあとでいつも自分の心を訪れていた悦ばしい歓喜の情を、取り戻したいと願ったばかりである。彼の就眠前の祈祷は、おおむね神に対する讃美のみで充されていた。こうした歓喜の情は、いつも軽い穏かな夢を伴なうのであった。今もこんなふうに祈禱をしていたが、ふとポケットの中で手に触れるものがあった。それはさきほどカチェリーナの女中が追っかけて来て、彼に手渡したばら色の小さな封筒である。彼はちょっとまごついたが、とにかくをすました。やがて少しためらった後に封を開いてみた。その中にはLise《リーズ》と署した自分あての手紙が入っていた、――それは今朝ほど長老の前でさんざん彼をからかった、例のホフラコーヴァ夫人の若い娘である。
『アレクセイさま』と彼女は書いていた。『あたしがこの手紙を書くのは誰にも内証なのです、お母さまにも内証なのです。そして、それがどんなに悪いかってことも知っています。けれど、あたしの心の中に生れ出たことをあなたに言わないでは、あたしもう生きてはいられません。このことはあたしたちふたりのほかには、しばらくのあいだ誰にも知られてはなりません。けれど、あたしの言いたいと思うことを、どんなふうにあなたに言ったらいいのでしょう? 紙は赧い顔をしないと申しますが、それは嘘です。あたし誓ってもいいわ。紙も今のあたしと同じように真っ赤な顔をしています。いとしいアリョーシャ、あたしはあなたを愛します。まだ子供の時分から、――あなたが今とはまるで違っていらしったモスクワ時分から愛しています。そして、一生あなたを愛します。あたしはあなたと一つになって、年とったら一緒にこの世を絡ろうと、自分の心であなたを選んだのです。けれど、必ずお寺から出ていただくという条件つきですの。あたしたもの年のことなら、それは法律で命じられているだけ待ちましょう。その頃までにはあたしもきっと快《よ》くなって、一人で歩いたり舞踏したりしますわ。そんなことは言うまでもありません。
 ねえ、あたしがどれだけ考えたかわかったでしょう。けれど、たった一つ、どうしても考えつかれないことがありますの、――この手紙をお読みになる時、あなたはまあ何とお思いになるでしょう? あたしいつも笑ったり、ふざけたりばかりしてるんですもの。今朝だって、あなたをすっかり怒らしてしまいました……けれど、誓って言いますわ。あたし今ペンを取る前に、聖母マリヤさまのお像を拝んで、今でもやはりお禱りしていますの、もう泣かないばかりですわ。
 あたしの秘密は今あなたの手に握られてしまいました。明日いらっしゃる時に、あたしどんなふうにあなたと顔を合していいやらわかりまぜん。ああ、アリョーシャ、もしあたしがあなたの顔を見ているうちに、我慢できなくなって、今朝と同じように、馬鹿みたいに笑いだしたらどうしましょう? たぶんあなたはあたしを意地わるな冷かしやだと思って、この手紙さえ本当にして下さらないでしょう。ですからね、もしあたしを可哀そうだとお思いになったら、明日あたしのところへ入ってらっしゃる時に、後生ですから、あまりまっすぐにわたしの目を見ないようにして下さい。だって、もしわたしの目があなたの目にぴったり出合ったら、きっと笑いだすに相違ないんですもの。それにあなたは、あんなぞろぞろした着物を着てらっしゃるじゃありませんか……あたし今でさえそのことを考えると、身うちが寒くなってきます。ですから、入ったときしばらくの間、一切あたしの顔を見ないで、お母さまのほうか窓のほうを見てて下さいな……
 とうとうあたしはあなたに恋文を書いてしまいました。ああ、なんてことをしでかしたのでしょう! アリョーシャ、あたしを軽蔑しないで下さい。もしあたしが大変な悪いことをして、あなたに心配をかけたのでしたら、どうか勘忍して下さいまし。あたしの永久に亡びた名誉の秘密は、今あなたの手の中にあるのです。
 あたし今日きっと泣きますわ。さよなら、恐ろしき再会の時まで。Lise《リーズ》.
 P・S・アリョーシャ、ただね、きっときっと来てちょうだいな! Lise.』
 アリョーシャは驚きの念をいだきつつ読み絡った。そして、今一ど読み返して、しばらく考えていたが、ふいに静かな甘い微笑をもらした。と、彼はぴくりと身を顫わした。今の微笑が罪悪のように思われたのである。しかし、一瞬の後、また同じように静かな、仕合せらしい笑みをもらすのであった。彼はゆっくりと手紙を封筒へおさめてから、十字を切って横になった。すると、急に胸の嵐がぱったり凪いでしまった。
『神様、どうぞさきほど会って来たすべての人たちを憐れんで、あの荒れ狂う不幸な人たちをお救い下さいまし。そしてあの人たちの心を正しい道へ向けて下さいまし。あなたはすべての道を握っておいでになります。あの人たちを救うべき道をご存じでございます。あなたは愛でございます、どうぞあの人たちに悦びを授けて下さいまし!』とアリョーシャは、呟きながら十字を切って、穏かな夢を結ぶのであった。

『カラマーゾフの兄弟』P158-161   (『ドストエーフスキイ全集』第12巻(1959年、米川正夫による翻訳、河出書房新社))[挑戦59日目]

び声を聞きつけて、部屋の中へ駆け込んだ。一同は彼女の方へ飛びかかった。
「ええ、帰るわ。」長椅子から婦人外套を取りながら、グルーシェンカはそう言った。「アリョーシャ、わたしを送ってちょうだいな!」
「お帰んなさい、はやくお帰んなさい、お頼みです!」アリョーシャは、祈るように両手を合すのであった。
「アリョーシャ、後生だから送ってちょうだいってば! わたし歩きながら、それはそれはいいことを一つ教えて上げてよ! 今のはね、わたしあんたのために、わざと一芝居うってみせたのよ。送ってちょうだい、あとで気に入るに相違ないんだから。」
 アリョーシャは両手をよじ合せながら、くるりと脇を向いてしまった。グルーシェンカはからからと笑って家を飛び出した。
 カチェリーナはヒステリイの発作を起した。彼女は痙攣に息をつめられて、しゃくり上げながら泣くのであった。一同はそのまわりをうろうろしていた。
「だから、わたしが前からそう言ったんですよ」と年上のほうの伯母が言った。「わたしがそんな思いきったことをするのはよくないと言ってとめたんだけど……あなたがあまり物事に熱中する性分ですからね……本当にあんな思いきったことをするって法はありませんよ! あなたはあんな種類の女を知りなさらないけれど、誰でもあれは人間の屑だって言っていますよ。本当に、あなたはわがまますぎるんです!」
「あれは虎です!」とカチェリーナは声を振り絞って叫んだ。
「アレクセイさん、なぜあなたはわたしをとめたんです? わたしあの女をうんと思うさまひっぱたいてやったのに!」
 彼女はアレクセイの前でも、自分を抑えることができなかったらしい。しかし、あるいは抑えようとも思わなかったのかもしれない。
「あんなやつは鞭で引っぱたいてやってもいいのだ、処刑台へのせて、首切り人の手を借りて、大勢の目の前で!………」
 アリョーシャは戸口のほうへあとずさりした。
「だけど、まあ!」突然、彼女は手を拍って叫びだした。「あの人が! 本当にあの人はそれほどまでに不正直な、不人情な人間になりさがったのでしょうか! だって、あの人が話して聞かせたのでしょう、あの恐ろしい、永久に呪ってもたりない日の出来事を!『お嬢さま、あなだだってその美しい顔を売りにいらしったじゃありませんか』だとさ! あの女は知ってるんだ! アレクセイさん、あなたの兄さんは悪党です!」
 アリョーシャは何か言いたかったが、言うべき言葉が一つも出て来なかった。彼の心臓は痛いほど締めつけられるのであった。
「アレクセイさん、帰って下さい! わたしは恥しい、わたしは恐ろしい! あす……一生のお願いですから、あす来て下さいませんか。どうかわたしを悪く思わないで下さい、赦して下さい。わたしはまだ自分で自分をどうするかわからないんですから!」
 アリョーシャはよろめくような足どりで往来へ出た。彼もカチェリーナと同しように泣きだしたくなった。と、うしろから女中が追っかけて来た。
「これはホフラコーヴァさまからことづかった手紙ですが、奥さまがあなたにお渡しするのを忘れなさいましたので……もうお昼すぎからまいっておりました。」
 アリョーシャはばら色の小さな封筒を、機械的に受け取って、ほとんど無意識にかくしへ押し込んだ。

   第十一 ここにも亡びたる名誉

 町から僧院までは一露里と少しばかりしかなかった。この時刻になるといつも淋しい道を、アリョーシャは急いで歩いた。ほとんどもう夜のとばりが落ちて、三十歩さきにあるものは見分けがつかなかった。ちょうど半分道のあたりに四辻があったが、その四辻の一本柳の下に何かの影が見えた。アリョーシャが四辻へ足を踏み入れるやいなや、この影はっとその場を離れて、彼のほうへ飛びかかって来た。そして猛烈な声で叫んだ。
「命が惜しくば財布をよこせ!」
「ああ、兄さんですか!」ひどく慄えあがったアリョーシャは、驚いてこう言った。
「はははは、意外だったかい? おれはどこでお前を待とうかと考えてみたのさ。あの女の家のそばとも思ったが、あすこから道が三つに分れてるから、漲くしたら見落すかもしれない。で、とうとうここで待つことにきめたんだ。なぜと言って、お寺へ行く道はもうほかにないから、お前はぜひここを通るに相違ないだろうと思ってね。さあ、ありのままを言って、おれを油虫のようにへし潰してくれ……しかし、お前は一たいどうしたんだ?」
「何でもありませんよ、兄さん……僕ちょっとびっくりしたもんですから。だけど、兄さん、つい先ほどお父さんの血を流したばかりだのに(とアリョーシャは泣きだした。もうだいぶ前から泣きたかったのだが、いま急に心の中で何か引きちぎれたような気がしたのである)……危くお父さんを殺さないばかりの目にあわして……呪いの言葉まで吐いておきながら……今……ここで……『命が惜しくば財布をよこせ!)なんて、洒落どころの騒ぎですか!」
「ふん、どうして? 無作法だとでも言うのか? 今の境遇に不釣合いだとでも言うのか?」
「いいえ、そうじゃありません……僕はただ……」
「ちょっと待ってくれ。まあ、この夜景色を見ろ。何という暗澹たる夜だろう! 一面の雲で、おまけにえらい風が起ったじゃないか? おれはこの柳の陰に隠れてお前を待ってるうちに、ふいと考えたよ(まったくの話だ!)、このうえ何をくよくよして、何を待つことがいるんだ! ここに柳もあるし、ハンカチもあればシャツもあるから、繩はすぐになうことができる。そいつをちょっと水で濡らしたら、――もうこの大地の荷厄介にならないでもすひし、この低劣な存在でもって神聖な土をけがすこともない! ところへちょうどお前の足音が聞えたのさ、――すると急に何ものか、おれの頭の上へ飛び下りたような気持がした。つまり、何といってもまだおれの愛する人間がいる。あれがそうだ、あの人間がそうなんだ、あれが世界じゅうでおれの一番好きな、たった一人の可愛い弟だ、とでもいうような心持なのさ。そこでおれはその瞬間に、お前が可愛くてたまらなくなったので、一つあれの頸っ玉へ嚙りついてやれと考えたんだ。ところが、またひょいと馬鹿な考えが浮んできて、『一番あれの気の浮き立つようにびっくりさしてやろう』と思ったので、つい『命が惜しくば!』なんて、馬鹿みたいに呶鳴ったのさ。実際、馬鹿な真似だった、赦してくれ、――あれはほんの冗談で、心の中は……やはり真面目なんだよ……ええ、まあ、どうだっていいや、それよりもあそこでどんなことがあった、聞かしてくれ。あの女は何と言った? さあ、おれをへし潰してくれ、遠慮なしに度胆を抜いてくれ! 前後を忘れるほど腹を立てたろうな?」
「いいえ、違います……あそこで見たのはまるで思いがけないことですよ、ミーチャ。あそこで……僕はたった今、両方の人に会いました。」
「両方の入って誰々だい?」
「グルーシェンカとカチェリーナさんです。」
 ドミートリイは棒立ちになった。
「そんなことがあるもんか!」と彼は叫んだ。
「お前、夢を見てるんだよ! グルーシェンカがあの女のところへ行くなんて!」
 アリョーシャはカチェリーナの家へ入った瞬間から、自分の見聞きしたことをすっかり話した。彼は十分ばかり話しつづけた。むろん、流暢な整った話しぶりではなかったが、肝心な言葉や肝心の動作を掴むとともに、ただ一語で自分自身の感じをまざまざと伝えるようにしながら、すべてを明瞭に描き出してみせた。
 ドミートリイは不思議なくらい身動きもしないで、じっと目を据えて無言のまま弟を見つめていたが、彼が一切の事実を理解して、その意味を摑んだということは、アリョーシャにもよくわかった。しかし話の進行につれて、彼の顔は次第に沈んできた、というよりは、むしろもの凄くなってきた。彼は眉を寄せ歯を食いしばっていたが、じっと倨って動かぬ目はさらにしゅうねく凝結して、さらに恐ろしくなったように思われた……と、今まで憤怒に燃えるようにもの凄かった顔が、急に異常な速度をもってさっと一変した時、アリョーシャはなお一倍意想外の感に打たれた。きっと結ばれていた唇が一度に開いて、突然ドミートリイはいかにもこらえかねたふうに、少しも拵えたところのない声で、堤が切れたように笑いだしたのである。実際その笑い方は文字どおりに堤が切れたようであった。彼は長いあいだ笑いに遮られて、ものを言うことさえできなかった。
「じゃ、その手を接吻しなかったんだな! じゃ、接吻しないで、そのまま逃げ出したんだな!」と彼は何だか病的な悦びを浮べながら叫んだ。この悦びは、もしあれほど無技巧な趣きがなかったら、あるいは傲慢な悦びとさえ言うことができたかもしれない。「じゃ、あの女が『虎』だって呶鳴ったのか? まったく虎だよ! そして、あいつを処刑台へのせなきゃならんて? そうともそうとも、おれも同意だ、実際その必要があるんだよ、もう前からその必要があったんだよ! だがなあ、アリョーシャ、処刑台はいいとしても、まず最初にすっかり快くなっておく必要があるよ。しかし、あの傲慢な女王の心持がよくわかるじゃないか、あの女の面目がその『お手』の中に躍如たりだ。極道女だなあ! あいつはこの世で想像し得るすべての極道女の女王だ! その中に独得の歓喜があるんだよ! それで、あいつはすぐ家へ走って帰ったのか? おれはすぐ……よし……おれはこれからあいつのところへ一走り行って来るぞ! アリョーシャ、どうかおれを責めんでくれ。あの女は絞め殺しても飽きたりないやつだ、それはおれもぜんぜん同意なんだけれどなあ……」
「そして、カチェリーナさんは!」とアリョーシャは悲しげに叫んだ。
「あの女もわかったよ、すっかり腹の底まで見すかしちゃった、こんなによくわかったのは今がはじめてだ! これはもう世界四大州の発見だ、いや、四大州じゃなくて五大州だ! 本当に何という大胆なことをしたものだろう! それはちょうどあの時の女学生のカーチェンカそっくりだ。父を救おうという高潔な理想のため、恐ろしい侮辱を受ける危険を冒してまで、馬鹿な乱暴な将校のところへ平気で出かけて行ったあの時のカーチェンカそっくりだ! 並みはずれた誇り、冒険の要求、運命に対する挑戦、無限の挑戦……こういったような心持なんだ! お前の話では、あの伯母さんがとめたんだってね。あの伯母さんは、お前、例のモスクワの将軍夫人の実の妹だが、これもなかなかわがままな女で、姉さんより一倍鼻を高くしていたんだよ。ところが、ご亭主が官金費消の罪で、領地から何から一切のものをなくしてしまうと、あの伯母さん急に調子を低くして、それからこっち、ずっと小さくなってしまったのさ。この人がとめようとかかったけれど、カーチヤが耳もかさなかったわけなんだね。『何だってわたしに征服できないものはありません、何だってわたしの権力内にあるのです。わたしがその気になりさえすれば、グルーシェンカでも、手の中に丸め込んでお目にかけます』という腹だったのさ。そうして、自分で自分を信じきって、自分で自分にから威張りをやったんだもの、誰を恨むこともできんじゃないか? あの女がわざわざ自分のほうからグルーシェンカの手を接吻しだのは、何かずるい目算があってのことと思うかい? どうしてどうして、あの女は本当に心底からグルーシェンカに惚れ込んだのさ。いや、グルーシェンカではない、自分の空想に惚れ込んだのだ、自分の夢に惚れ込んだのだ、なぜって、それは『わたしの空想ですもの、わたしの夢ですもの、』惚れ込まずにいられるはずがない! しかし、アリョーシシャ、どうしてお前はあの女たちのところから逃げ出して来たい? 法衣の裾をからげて駆け出したのかい?」
「兄さん、あなたは、自分がどんなにカチェリーナさんを侮辱したがってことに、ちっとも注意をはらわなかったようですね。兄さんはあの日のことを、グルーシェンカに話したでしょう。たった今グルーシェンカがあのひとに面と向って、「あなだだってその美しい顔を売りに、ないしょで若い男のところへいらしたでしょう!」って言ったんですよ。ねえ、兄さん、これ以上の侮辱があるでしょうか?」アリョーシャが最も心を痛めたのは、まるで兄がカチェリーナの屈辱を、悦んでいるように思われることであった。もちろん、そんなことがあり得ようはずはないけれど……
「なあるほど!」ドミートリイは急に恐ろしく顔をしかめて、掌で自分の額をぱちりと叩いた。彼はもうさきほどアリョーシャからこの侮辱のことも、『あなたの兄さんは悪党です!』とカチェリーナが叫んだことも、一度にすっかり聞いたくせに、今はじめて気がついたのである。「そう、本当におれはカーチ