『カラマーゾフの兄弟』第3篇
ャのいわゆる『あの恐ろしい日』のことを、グルーシェンカに話したかもしれん。ああ、そうだ、話し化、やっと思い出したよ! やはりあの時モークロエ村で話したんだ。何でも、おれはぐでんぐでんに酔っ払っていて、まわりではジプシイの女どもが歌をうたって…
び声を聞きつけて、部屋の中へ駆け込んだ。一同は彼女の方へ飛びかかった。 「ええ、帰るわ。」長椅子から婦人外套を取りながら、グルーシェンカはそう言った。「アリョーシャ、わたしを送ってちょうだいな!」 「お帰んなさい、はやくお帰んなさい、お頼み…
ような美しさも、三十近くなったら調和を失ってぶくぶく肥りだし、顔まで皮がたるんでしまって、目のふちや額には早くも小皺がよりはじめ、顔の色は海老色になるかも知れない、――つまり、ロシヤ婦人の間によくある束の間の美、流星の美だというのである。 ア…
に対する考えを、あんな偉そうな調子で言ったのが恥しくもあった。 こういうことがあっただけに、いま自分のほうへ駆け出して来たカチェリーナを一目見た時、彼の驚きはなおさら強かった。もしかしたら、あの時の考えがまるで誤っていたかもしれない、と感じ…
悲しそうに言った。 「いいや、いいや、いいや。あれはお前の言葉を信用する。今度のはな、お前自身でグルーシェンカのとこへ行くか、それともほかに何とかしてあれに会うて、あれがどっちを取る気でおるか、――わしかあいつか、どっちにする気でおるか、訊い…
老人はその目の光にびくっとした。しかし、その時、ほんの一瞬間ではあったけれども、きわめて奇怪な錯誤が生じたのである。その際老人の頭から、アリョーシャの母はすなわちイヴァンの母である、という想念が脱け出してしまったらしい。 「お前の母親がどう…
イヴァン、誰が一たい人間をこんなに愚弄するんだろう? もう一ペん最後にはっきり言うてくれ、神はあるのかないのか? これが最後だ!」 「いくら最後でも、ないものはないのです。」 「じゃ、誰が人間を愚弄しておるのだ、イヴァン?」 「きっと悪魔でしょ…
けたほかの人を、みんな一人残さず呪いつくして、少しも容赦なさらないでしょうか? こういうわけですから、一たん神様を疑うようなことをしたところで、後悔の涙さえこぼしたら赦していただけるものと、私は信じているのでございますよ。」 「待てよ、」フ…
り見まもるだろうが、何か何やら少しもわけはわからないのである。事実、すぐわれに返るに相違ないけれど、何をぼんやり立って考えていたのかと訊かれても、きっと何の覚えもないに違いない。しかし、その代り、自分の瞑想の間に受けた印象は、深く心の底に…
で、甘いものと一緒にコニヤクを飲むのが好きであった。イヴァンも同じく食卓に向ってコーヒーを啜っていた。二人の下男、グリゴーリイとスメルジャコフとがてーぶルのそばに立っていた。見受けたところ、主従とも並みはずれて愉快に元気づいているらしい。…
らないが、そうする必要があったんだろうよ)、これから県庁所在地の町へ行って、モスクワにいる姉さんのアガーフィヤヘ、為替で三千ルーブリ送ってくれとの頼みだった。県庁所在地まで行ってくれというのは、ここの人に知られたくないからだ。この三千ルー…
の損失が生じたので、おれの手もとへ返したのは、みんなで二百六十ルーブリくらいのものだったらしい。よくは覚えていない。しかし、ほんの金だけで、手紙もなければ一言の説明もない。おれは包みの中に、何かちょっと鉛筆でしるしでもしてないか、と思って…
ね?』 『それは何のこと? 何だってそんなことをおっしゃるの?せんだって将軍閣下がお見えになったとき、そっくりちゃんとあったわ。』 『その時はあっても今ないんですよ。』 『後生だから脅かさないでちょうだい、一たい誰から聞いて?』と恐ろしくびっ…
間てやつは自分の痛いことばかり話したがるものだよ。いいかい、今度こそ本当に用談に取りかかるぜ。」 第四 熱烈なる心の懺悔―思い出「おれはあっちにいる頃、ずいぶん放埒をつくしたものだ。さっき親父がおれのことを、良家の令嬢を誘惑するために、一時に…
が、お前自分であのひとと親父のところへ行くなんて。」 「本当に兄さんは僕を使いにやりたかったんですか?」病的な表情をおもてに浮べて、アリョーシャはこう口走った。 「待て、お前はこのことを知ってたんだ。お前が一遍にすっかり呑み込んじまったのは…
はともあれ、自分を侮辱しようなんて気は起すはずがない、こう彼は固く信じていた。彼は世界じゅうで誰ひとり自分を侮辱しようとするものはない、いな、単にないばかりでなく、できないのだと信じきっていた。これは彼が何らの推理をも要せずに、とうからき…
第二 リザヴェータ・スメルジャーシチャヤ この事件には、グリゴーリイの以前からいだいていた不愉快な穢わしい疑いを、弁護の余地がないほど明確に裏書きする事情があって、それが彼の心を深く震撼させたのである。 このリザヴェータは恐ろしく背の低い娘で…
「わからにゃわからんでええ。しかし、それはそうに違えねえだ。もうこのさき口いきくなよ。」 そして、本当に二人はこの家を去らなかった。フョードルは夫婦の者に僅かな給金を定めて、ちびりちびりと支払うのであった。しかし、グリゴーリイは疑いもなく主…
へ地主のマクシーモフが現われた。彼は一行に遅れまいと、息を切らせながら駆けつけたのである。ラキーチンとアリョーシャは、彼が走って来る様子を目撃した。彼は恐ろしく気をいらって、まだイヴァンの左足がのっかっている踏段へ、もう我慢しきれないで片…