『カラマーゾフの兄弟』第5篇
い。ところが、こないだの木曜日に、とつぜん坊主のイリンスキイが手紙をよこして、ゴルストキンがやって来たと知らせてくれた。これもやはりちょっとした商人で、わしは前から知っとるのだ。ただ有難いのは、この男がよその人間だということなんだ。ポグレ…
き始めた。こうした憎悪の念が、かくまで険悪な経過をとってきたのは、最初イヴァンの帰省当時、ぜんぜん反対な事実が生じたためかもしれぬ。当時、イヴァンは急にスメルジャコフに対して、一種特別な同情を示すようになったばかりでなく、彼を非常に風変り…
もって、何が善であり何が悪であるか、一人で決めなければならなくなった。しかも、その指導者といっては、お前の姿が彼らの前にあるきりなのだ。しかし、お前はこんなことを考えはしなかったか、もし選択の自由というような恐ろしい重荷が人間を圧迫するな…
いては、もう一ことも言わないことにする。僕はわざと論題をせばめたのだ。僕は南京虫みたいなやつだから、何のために一切がこんなふうになってるのか、少しも理解することができないのを、深い屈辱の念をもって、つくづくと痛感している。つまり、人間自身…
ってしまえばいいんだ。話のついでだが、あのひとは今どうしてるね? 僕が帰ったあとでどうなったい?」 アリョーシャはヒステリイの話をして、彼女は今もまだ人事不省におちいって、譫言を言っていることだろうとつけたした。 「ホフラコーヴァが嘘をついた…
「そりゃ、アレクセイさん、そのとおりですよ、その一年半の間に、あなたとリースは幾千度となく喧嘩したり、別れたりなさることでしょうよ。けれど、わたしは喩えようもないほど不仕合せでございます。それはみんなばかばかしいことには相違ありませんが、…
した声でこう囁いた。もう言葉は少しも途切れなかった。 「手品ですって?」 「ええ、手品、ちょっとした手品なんで」と言う二等大尉の声は、依然として囁くようであった。彼は口を左のほうへねじ曲げ、左の目を細めながら、まるで吸いつけられたようにアリ…