京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

元暴力団幹部・東京地裁判決(要旨・1997年3月19日・安広文夫裁判長)

【村井秀夫・元教団幹部刺殺事件 元暴力団幹部に対する判決要旨】
 第一 公訴事実の要旨
 被告人は、田中こと徐裕行と共謀の上、一九九五年四月二十三日午後八時三十六分ころ、東京都港区南青山所在のマハーポーシャビルの出入り口付近において、村井秀夫(当時三六歳)に対し、殺意をもって、その腹部等を刃体の長さ約二ー・四センチメートルの牛刀で突き刺し、翌四月二十四日午前二時三十三分ころ、都立広尾病院で失血等のため死亡させて殺害した。
 第二 争点と本件の証拠関係
 本件公訴事実のうち、徐が公訴事実記載のとおり村井殺害を実行したことは、関係証拠上明白である。徐は被告人の指示で犯行に及んだ旨具体的に供述し、被告人は本件犯行前徐に本件犯行に関係する話は全くしていないと供述し、両者の供述は、重要な点で真っ向から対立している。徐の供述以外に、被告人の本件犯行への関与をうかがわせる有力な証拠は提出されていないから、被告人の有罪・無罪は、もっぱら徐の供述の信用性の評価如何にかかっているといっても過言ではない。本件犯行の性質、徐の供述内容等からして、本件は徐の純然たる単独犯行ではなく、何らかの背後関係があるものと強く疑われるところであるが、被告人ないし同人が若頭を務める○○組(暴力団の名前=筆者注)の村井殺害との利害関係等に関する証拠は全く提出されておらず、徐の○○組関係以外との交友関係等に関する裏付け証拠も乏しく、徐に被告人や○○組関係以外の背後関係が存在する可能性も否定できないところである。このような本件の証拠関係および「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則にかんがみると、徐の供述が、迫真性に富み、不自然・不合理な点が少なく、他の有力な証拠により裏付けられているなどの理由により、高度の信用性が認められなければ、被告人を有罪とすることはできないというべきである。(後略)
 第三 徐の供述の概要および被告人の供述の骨子(略)
 第四 当裁判所の判断
 一、二(略)
 三 被告人の供述の信用性とその他の検察官の主張について
 徐の供述の不合理性・不自然性は、被告人の供述と対比しなくても十分指摘できるところであり、被告人の供述にも信用性が低いと思われる部分があることは否定できないが、だからといって、徐の供述の不合理性等が緩和されるわけではない。検察官は、種々の点に関し、徐の供述が信用でき、これに反する被告人らの供述が信用できない旨主張するが、これらについて検討を重ねても、既にこれまでに検討してきたところから導かれる結論は動かないところである。

 四 結論
 以上検討してきたとおり、被告人が本件犯行を指示したとの徐の供述には、重大な疑問点があり、高度の信用性があるとはいえず、他に被告人の本件犯行への関与を推認させるような有力な証拠もなく、本件審理で提出された全証拠を子細に検討しても被告人が徐へ本件犯行を指示したことを認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
 したがって、本件公訴事実については、犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法三三六条により被告人に対し無罪の言い渡しをする。

 

底本:『オウム法廷4』(1999年、降幡賢一朝日新聞社