京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

松本知子・東京地裁判決(要旨・1998年5月14日・仙波厚裁判長)

【松本知子被告に対する判決要旨】
〔量刑の理由〕
 一 本件(○○さんリンチ殺害事件)は、オウム真理教の最高幹部の一人であり、教祖である松本智津夫の妻でもある被告人が、松本や他の教団幹部らと共謀の上、脱会した元信者を殺害したという事案である。
二 本件犯行は、教団を脱会した元信者と被害者が、教団施設に侵入して、元信者の母親を連れ出そうとしたことなどから、教団の教義からすれば、被害者は教団に対する敵対行為を慟いたとして、教団の独自の論理に基づく私的制裁として行われたものであって、松本を中心とする教団の組織的な犯行であるとともに、その動機も著しく反社会的なものであり、酌量の祭地はまったくなく、悪質極まりない。犯行態様は、被害者と一緒に侵入した元信者に被害者の殺害を命じ、被害者の頭部にビニール袋を被せ、その中に催涙ガスを噴射して苦痛を与えた上、助命嘆願の叫びをあげ、必死に抵抗する被害者の身体を教団幹部らが押さえ、元信者がその頸部にロープを巻いて絞め付け、窒息死させたというものであり、残忍で情け容赦のない冷酷非道なものである。本件犯行の結果、被害者は、多大な苦痛に曝された上、いまだ二十代の若さにしてその生命を奪われている。しかも、殺害後、被害者の遺体は、マイクロ波を用いた死体焼却装置で焼却され、一片の遺骨も残らなかったのであり、被害者の無念はもとより、唯一の息子を奪われた母親の絶望感は察するに余りある。それにもかかわらず、これまで被告人側からは何らの慰謝の措置も講じられておらず、被害者の母親が犯人の極刑を望んでいることも当然と言わなければならない。さらに、教団では、その後、元信者が所在不明になったことから、その口を封じるため行方を追及し、元信者を教団施設に拉致しようとするなど、犯行後の情状も悪質である。
 被告人の個別の情状を見ても、被告人は、教団において正大師と称する最高幹部の地位にあり、また、教祖である松本の妻という立場にあったのであるから、松本や幹部らの暴走を抑止すべき責任を負っていたというべきであるのに、松本からの殺害の提案に対して明確に賛成し、犯行現場にとどまり、殺害後においても犯行を肯定する発言を行うなどしており、その果たした役割には軽視出来ないものがある。また、被告人は、終始その刑責を否定する態度を取っており、反省の態度にも乏しい。
 これらの点に照らすと、被告人の刑責は重大であると言わなければならない。
三 しかし他方、被告人は、直接殺害の実行行為を行っていないこと、松本から誘導を命じられるままに犯行現場に付き従って本件に関与したという点で、被告人の関与そのものは偶発的と言えること、謀議の場面においても、松本や教団幹部らの賛成意見に追従した形で意見を述べており、自ら積極的に犯行に関与したとまでは言えないこと、前記の通り反省の態度には乏しいものの、公判廷においては、被害者やその遺族に対して一応の謝罪の意を示していること、被告人にはこれまで前科はないことなど、被告人のために酌むべき事情も認められる。
四 そこで、これら被告人に有利不利な一切の事情を総合考慮し、主文の通りの刑を量定した。

底本:『オウム法廷7』(2001年、降幡賢一朝日新聞社