京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

「薬事法違反(チオペンタール密造)事件の松本智津夫被告の供述調書」(1995年7月14日作成、『オウム法廷』2下巻)

薬事法違反(チオペンタール密造)事件の松本智津夫被告の供述調書】
 証拠番号574
 チオペンタールナトリウムの無許可製造という薬事法違反の事実で勾留され、黙秘権を告げられたうえ、調べを受けています。
 オウム真理教の一連の事件のうち、特に薬物に関する事件については、前提を正しく理解してほしい。本質的に人間は人間の枠組みを破って進化しなければならないのですが、その進化をどうしたら速められるかが大前提です。分かりやすく言うと、深い信仰に対する確信をもち至福を得ることです。進化にはふたつの過程があり説明します。一つは、正知・遮断・現象・修習がある。すなわち、自分の煩悩を知り、これを遮断することで、現象としての神秘力、つまり神通力とか超能力などがあらわれ、そして修習つまりこれを繰り返すことによってさらに神秘力が高まる。もう一つは、臨・寂静・証智・正覚・煩悩破壊。つまり心を静め、智恵を自分自身で経験・理解し、それによって正しい悟りを得、煩悩は破壊され、至福を得ることが出来る。こういう進化が救済になります。
 この進化のためには、普通は表層意識における学習の連続によって修得するのです。具体的に言えば記憶修習つまり経典を読んだりテープを聞いたりしてデータを入れています。表層意識から潜在意識の中に入って信仰上の確信が出てくるのです。
 しかし、この方法にはある程度の時間がかかるのですが、急がなければいけない事態が生じてきました。一昨年(九三年)あたりからオウム真理教被害対策弁護団による活動が頻繁に始まった。滝本太郎弁護士を中心とするグループが、サマナ、信徒を次々と拉致、ホテルなどに監禁し、洗脳し、サマナと信徒の活動を停止させ脱会させるということが横行しました。拉致監禁は犯罪ですが、警察に言ってもだめでした。こうした事態を放っておけないと思い、信教の自由に対する妨害を防ぐためにも、サマナ、信徒が早く信仰上の確信を持つ必要があったのです。薬物を使ったバルドーの悟りのイニシエーション、キリストのイニシエーション、ルドラチャクリンのイニシエーションなどは、こうした背景があって、研究者による研究があり、人間の内側で深い意識の内に信仰上の確信を持たせることを目的として考えられたのです。決して金集めの事件でなく、侵害から助け上げるサマナ、信徒をいかに増やすかに力点を置いたものなのです。決して金集めではないことは、九四年の収入が九三年よりも少ないことでも分かると思います。
 林郁夫、遠藤誠一土谷正実からチオペンタールナトリウムの名前を聞いたかどうかは覚えていません。私は専門家でも研究者でもなく記憶に残っていないし、どういう薬か薬効も知らない。もし、使われていれば、深く眠らせる作用のあるものであるということは言えました。
 バルドーの悟りのイニシエーションについて、もともと中川智正が潜在意識の働きとか、その変え方とかを研究しておりました。そして、林も興味を持って研究しており、九四年五月か六月に私に「潜在意識に医学的にアプローチする方法があるんですが」と言ってきました。私は林に「バジラティッサ(中川被告の宗教名)の方が先に研究しているよ。中川に相談したらどうか」と言いました。林が「ぜひやらしてくれ」といったので、私は「結果はあまり期待できないけれどやるんだったらやっていいじゃないか」と言いました。私自身は積極的に賛成していないが専門家のやることなので、あえて反対しませんでした。このときに、林がそれに使用する薬名などを言っていたような気がしますが覚えていません。チオペンタールなどという名前が出ているとしたら、このときだったかもしれません。
 そして、バルドーの悟りのイニシエーションが始まりました。その時期は九四年九月以降だったと記憶している。というのも、八月に渡仏しロシアを回って帰国したばかりだったからです。また、決意のテープが、つまり修行を促進するための決意の言葉だけが入ったテープが出来たのが九月であり、このテープがこのイニシエーションに使われたから、そう言えるのです。このイニシエーションは、まず決意のテープをサマナや信徒が聞き、その後その決意が潜在意識の中で根付いているかどうかを確認するものでした。薬物をどうやって投与するかは、私は盲目なので分からないが、飲用ではなく林らによる点滴のようでした。立ち会い相手に話しかけ、現世的なひっかかりがあると、アドバイスをしたりしました。もっとも私が立ち会った相手の人は信徒でしたが、結果的には潜在意識の中に現世の引っかかりがあり、この人はその後も出家しませんでした。
 表層意識の記憶を潜在意識に深く入れるためには有効で、いわば睡眠学習のようなものです。それ以上の効果のあるものではありません。
 ところが、その後、このイニシエーションについては、こういった純粋な、人間を進化させるという目的を、逸脱したような使用が行われました。弟子を傷つけたくないので実名は出しませんが、ある人が宗教的目的以外に使い始めたようで、間違った方向に行ったと言わざるを得ない。私の指示・許可でなされたものではありません。第一に、私は宗教目的以外に使ってはいけないと思いますし、第二に、宗教目的以外に使えば、相手がイニシエーション中のことを覚えており、だいたい使えるはずがないのです。サマナからイニシエーションについて苦情があり、私は林に「本来の目的以外の使い方をするな」と注意することもありました。林以外もからんで行われたもので、私の意図するところではありませんでした。

 証拠番号575
 アヌーパマという経理のワークを行い、省庁制度が施されてからは大蔵省の幹部となった弟子に対する医師の誘導による質疑応答については、私が直接、彼に話しかけたりした記憶があります。このときは、バルドーの悟りのイニシエーションはまだ行われていませんでしたので、それではなかったと思いますが、使われた薬物については記憶していません。このとき医師が何人か付き添いましたが、林がいた記憶はありません。とにかく、睡眠状態の弟子に対して私が験者、つまり問いかけ語りかける役割を担って、弟子の心の迷いを取り除いてやったのでした。このとき、その弟子は眠気が強くて、体調的・精神的に調子が悪いというので、それを聞いた医師が実施する際に私が「じゃあ、私が験者になってあげよう」といって験者の役割を果たしてやったのでした。やりとりは、例えば睡眠状態にある弟子に「どうして眠いのか」などと話しかけ、それに対する応答について、「経典ではこうなっているよ」などと語りかけ潜在意識の心の迷いをとりのぞいてやったのでした。
 ヨーガにはジュニアーナヨーガがあるが、これは煩悩の原因を熟考と吟味で取り除くヨーガです。アヌーパマに対する、こういった誘導もそれと同じ意義を有するものでした。これの実施時期は九四年夏か夏前ですが正確ではありません。なお、アヌーパマに対する誘導について、AHI(教団付属医院)あるいは治療省の弟子に「ジュニアーナヨーガと同じ効果は、私が誘導したことによる効果なんだよ。誘導する者のステージが影響するんだよ」と説明した。この意味は、薬効など関係なく、験者である私の語りかけによる相手の思考プロセスがジュニアーナヨーガと同じ効果があるのであって、験者による語りかけの内容とその験者のステージがジュニアーナヨーガの効果を発揮するということでした。この説明をした時期は、実施した直後であって、実施する前に治療省の弟子たちにジュニアーナヨーガうんぬんの話をしたことはありません。
 薬事法違反に関する私の直接の容疑事実は、遠藤や土谷らと共謀のうえ、無許可で薬として九四年十一月上旬ころから今年(九五年)の二月中旬ころまで、教団施設内でチオペンタールナトリウムを製造したものであることは聞かされて知っています。
 今年に入ってまで法律違反となる薬が作られていたとする点はおかしいと思いますが、時期的なことを含めこの事実について詳しい供述は差し控えたいと思います。というのは、この件に関係している弟子たちのことは触れたくないのです。事実について詳しく話すとなると必然的に関係する弟子たち複数のことを話さなければならず、そうなるとおそらく関係する弟子たちと供述の上で闘わなければならないわけで、そういうことはどうしてもしたくないのです。
 検事さんには信じられないかもしれませんが、私は弟子たちが裁判でいろいろ言う前に、自分自身についての宗教的解決をすることを考えており、裁判で弟子と闘うことはないと思います。宗教的解決というのは修行の結果の神通力に関係することなので、具体的な説明は差し控えさせて下さい。
 問 平成六年(一九九四年)秋、遠藤、土谷、林らとチオペンタールの自家製造について話し合ったことはないですか。
 答 それについても同様の理由で話したくありません。ただ、遠藤と土谷がいっしょにいる場所でワークなどの話をすることはなかったのではないかと思います。厚生省では遠藤がトップで、その下が土谷ですが、仲が悪く、いっしょに呼んで話をすることなど、当時の状況からなかったと言えると思えるからです。