京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

F(教団「科学技術省」所属)・東京地裁判決(要旨・1996年7月16日・若原正樹裁判長)

【F被告 サリンプラント建屋、桧本サリン噴霧車襲造事件判決要旨】
 第一  (略)
 第二 罪となるべき事実の要旨
 被告人は、宗教法人オウム真理教に所属していたが、
 一 サリンを生成し、これを発散させて不特定多数の者を殺害する目的で、教団代表者麻原彰晃こと松本智津夫ら多数の者と共謀の上、九三年十一月ころから九四年十二月下旬ころまでの間、第七サティアン等において、サリン生成プラントを完成、作動させてサリンの生成を企て、もって殺人の予備をし、
 二 前記松本ら多数の者が共謀して敢行したいわゆる松本サリン事件について、九四年六月二十日ころから同月二十七日までの間、第十二サティアン等において、渡部和実ら多数の者と共謀して、犯行に使用された加熱式噴霧器設置車両を製作するなどして幇助した。

 第三 量刑の事情
 本件は、松本および教団に属する多数の信者が、独自の宗教的な考え方を背景に、不特定多数の者を殺害することを目的として、これに用いるサリンの大量生産を企てた殺人予備の事案(要旨一の事実)ならびに、松本および教団所属の信者が共謀の上、教団の松本市進出にからみ、教団に不利だと予想された訴訟の担当裁判官および反対派住民らを殺害し、併せてサリンの効果を検証しようと考えて行った殺人および殺人未遂事件(いわゆる松本サリン事件)につき、他の信者と共謀して、右犯行に使用する加熱式噴霧器設置車両を製作するなどして幇助したという事案(要旨二の事実)である。
 右事案の性質から明らかなとおり、被告人らの犯行の動機は、いずれも極めて独善的かつ自己中心的なものであって、酌量の余地はない。また、犯行の態様についてみても、松本の指示の下、教団の組織力を活用して、周到に計画・実行された犯罪であって、極めて悪質である。さらに、各行為の結果についてみると、要旨一の事実に関しては、被告人らが完成を目指していたサリン生成プラントは、七十トンもの多量のサリンの一貫生産が可能な大規模かつ本格的なものであったところ、現に一部サリンの生成に成功していたほか、捜査を想定した罪証隠滅工作が行われなければ、比較的短期間のうちに予定どおりサリンの大量生産が可能となる段階に至っていたものである。サリンの毒性の程度およびその生成予定量等にかんがみると、仮に大量生産されたサリンが現実に使用された場合の被害は想像を絶するものがあり、被告人らの行為の危険性には著しいものがあった。また、要旨二の事実については、住宅密集地でサリンを噴霧したことにより、七名の市民が死亡しているほか、百四十名以上の者が傷害を負ったもので、地域社会はもとより日本全国を不安と恐怖に陥れた衝撃的な事案であり、その結果は誠に重大である。
 被告人は、これらの各犯行のうち、要旨一の殺人予備の犯行に関し、九三年十月ころから同年十二月ころまで、村井秀夫、滝沢和義らの指示により、溶接班の責任者として、滝沢の設計した本件プラント用機器類の製作に従事し、その後一時その任から離れたものの、九四年三月ころ、製造責任者に復帰し、班員約三十名を指揮して、滝沢の設計したプラント用のタンクおよび熱交換器等の溶接作業などを行い、プラントが稼働し始めた後も、同年十二月下旬ころまでの間、しばしば第七サティアンに赴き、班員を指揮するなどしてプラント用機器類の補修作業等に従事した。そして、この間の同年九月ころから十月ころまでの間、村井、早川紀代秀らの指示を受けて、プラントで生成予定のサリンを収納するステンレス缶約三千個を製作するとともにその貯蔵倉庫の建設作業にも従事した。また、要旨二の殺人幇助、同未遂幇助の犯行に関しては、同年六月二十日ころ、村井、渡部らから加熱式噴霧器設置車両の原理や部品の形状を説明され、サリンの加熱・気化に使用する銅製容器の製作、サリン貯留用タンクの設置、右タンクと銅製容器間のパイプの設置、噴霧実験への立ち会いのほか、コンテナ開口部に設置した金網の塗装等の擬装工作に従事し、村井の指示に従って、完成した右噴霧車両を第十二サティアンからクシティガルバ棟まで運転して運んだもので、いずれも犯行の重要な部分に関与しており、その犯情は悪質であって、刑事責任は重い。
(以下略)

 

 

底本:『オウム法廷2下』(1998年、降幡賢一朝日新聞社