京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

H・東京地裁判決(要旨・1997年3月18日・仙波厚裁判長)

【H被告に対する判決要旨から抜粋】
 一 (略)
 二 量刑の理由
(略 VX三事件について)
 本件各犯行における被告人の個別の情状をみても、被告人は、被害者らにVXをかけて殺害するという松本(智津夫被告=筆者注)の指示をCHSの責任者である井上(嘉浩被告=筆者注)を通じて伝えられると、VXの強力な毒性を十分に認識しながら、さしたる逡巡もなくその指示に従っているのであって、動機に酌量の余地はない。また、本件各犯行において被告人は、いずれも被害者の動静を監視し、被害者が自宅から出てくることを確認すると、被害者が自宅から出た旨、その服装、進行方向等を無線等で実行役に知らせるという見張り役を担当したものである。実行役が被告人の的確な連絡に基づいて被害者の襲撃を開始し、各犯行を遂げていることからすると、被告人は、各犯行の実行に必要不可欠な重要な役割を果たしたものということができるのであって、本件各犯行における被告人の責任は誠に重いといわなければならない。
(●●さん事件について 前半部分略)
 本件における被告人の個別の情状をみても、被告人は、井上からの依頼により安易に犯行に加わり、拉致の現場においては共犯者が被害者の背後から被害者の体を抱え上げるのに応じて車の中から被害者の体を掴んで車内に引き込むという役目を遂行し、さらに、車内においては共犯者が麻酔薬を注入しやすくするために被害者の頭部を押さえ付けたりしているのであって、犯行の動機に酌量の余地はないとともに、被告人が果たした役割も重要なものであったことも明らかで、本件における被告人の責任も誠に重大である。
 以上の諸事情を考慮すると、犯情は非常に悪質であって、被告人の責任は非常に重大であるといわなければならない。
 3 しかし他方、本件各犯行は、当時被告人が信仰していた教団の教祖である松本において発案し、その実行を教団の信者らに命じて行わせたものであり、被告人は井上を介して松本の指示を受け、当時被告人が所属していたCHSの活動の一環として本件犯行を犯したことが認められるのであり、このような松本と被告人との関係等を考慮すると、被告人が本件各犯行で重要かつ不可欠な役割を果たしていることは前述したとおりであるが、犯行を全体として見れば、被告人の本件各犯行に対する関与はなお従属的、受動的であったといってよい。また、殺人、殺人未遂事犯については、被告人の役割が被害者の動静監視やその連絡というものであって、被告人が直接被害者殺害の実行行為を行っているわけではないという点も、被告人のために考慮されてよいと思われる。
 加えて、被告人は、現在に至り自分が加担した犯罪の重大さを十分認識した上、真摯に反省し、被害者や遺族に謝罪の手紙を書くなどしていること、被告人は元来真面目な性格であることがうかがわれ、教団の中にあったがためにかかる犯罪に加担したという面があることは否定できないところ、すでに教団に対して脱会届を提出し、被告人が本件各犯行を行う原因ともなった教団との関係を断つことを誓うとともに、今後は他人に対する思いやりを大切にして生きていくと誓っていることなどからすれば、更生も十分期待できると思われること、被告人にはこれまで前科がないことなど、被告人のために斟酌すべき事情も認められる。
 4 そこで、これら被告人に有利不利な一切の事情を総合考慮し、主文のとおりの刑を量定した。

 

 

底本:『オウム法廷4』(1999年、降幡賢一朝日新聞社