京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

『悪霊』

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-217

全体として、彼はしじゅう勝ち誇ったような状態になっていた。彼女は山上の垂訓を通読した。 「Assez, assez, mon enfant(たくさんだ、たくさんだ、わが子よ)たくさんです……いったいあなたはこれだけ[#「これだけ」に傍点]でも不十分だと思うんですか?…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP169-192

一任するから。ひとつ朝からみんなのところを廻ってくれたまえ。ぼくの訓令は明日か明後日、みんなに聞き分けるだけの落ちつきができた頃、どこかに集めて読んで聞かしたらいいよ……しかし、ぼくが請け合っておくがね、あの連中は明日にもそれだけの落ちつき…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP145-168

いては、きみはぜんぜん安心して可なりです、――密告などしやしません」 彼はくるりとくびすを転じて、すたすた歩き出した。 「畜生、あいつ途中であの連中に会って、シャートフに告げ口をするに相違ない!」とピョートルは叫んで、いきなりピストルをつかみ…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP121-144

びえたように男の顔を見つめながら、奇妙な調子でこうたずねた。 「といって、つまり、なんのことだね、マリイ?」シャートフは合点がゆかなかった。「お前なにをきいてるんだい? ああ、どうしよう、ぼくはまるでとほうにくれてしまった。マリイ、堪忍して…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP097-120

の思いに沈めるのであった。リプーチンはとうとう彼が憎くてたまらなくなって、どうしてもその顔から目が放せないほどだった。それは一種の神経的発作ともいうべきものであった。彼は相手の口ヘほうり込むビフテキのきれを、一つ一つ数えながら、その口がぱ…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP073-096

しまいますよ。あなたはまだ女の心を知らないんですね! それにあのひとは、あなたと結婚するのが一番とくなんです。だって、あのひとはなんといってもやはり自分の顔に泥を塗ってしまったんですからね。そのうえ、ぼくはあのひとに『小舟』式の話を、うんと…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP049-072

へ投げかけた。その露骨な刺すような光は、これらの人々のびくびくした様子にあまりにも不調和な感じを与えるのであった。 「その様子がわたしの胸へぐっと来ましたの。そのとき初めて、わたしもレムブケーのことを感づくようになりました」とユリヤ夫人は後…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP025-048

ら響いて来た。 「読んでください、読んでください」と、幾たりかのうちょうてんになった婦人連の声が、それに相槌を打った。ついに拍手の音も起こったが、しかし、あっさりした勢いのないものだった。 カルマジーノフはひん曲ったような微笑を浮かべて、椅…

『ドストエーフスキイ全集10 悪霊 下』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP005-024

[#1字下げ]第三編[#「第三編」は大見出し] [#3字下げ]第1章 祭――第一部[#「第1章 祭――第一部」は中見出し] [#6字下げ]1[#「1」は小見出し] 祭はシュピグーリン騒ぎの日の、さまざまな奇怪な出来事にも妨げられず、いよいよ開催され…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP457-P474

口のところにあったのですが……」 「いや、覚えていませんな。いったいあすこに制服があったのですか?」 「はあ、ありましたんで」 「床の上に?」 「はじめ椅子の上に、それから床の上に」 「それで、あなたはそれをお拾いになりましたか?」 「拾いました…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP433-P456

結果の……どうやらわたしはいま広場できみを見受けたようですな。しかし、恐れたまえ。きみ、恐れたまえ。きみの思想の傾向はちゃんとわかっている。よろしいか、わたしはこのことを含んでおくから。わたしはね、きみ、きみの講演なぞさし許すわけにはいかん…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP409-P432

「気が進まないとでもいうんですか、ぼくもそんなことだろうと思ってた!」兇猛な憤怒の発作に駆られながら、彼はこう叫んだ。「そうはいきませんぜ、本当にしようのないやくざな、極道の、箸にも棒にもかからない若殿様だ。ぼくそんなことを本当にしやしな…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP385-P408

て、何がわかるものですか」 「なあに、われわれ自身でさえ、なんのことだかわからないんじゃないか」とだれかの声がつぶやいた。 「いいえね、わたしがいうのは、要心はいつでも大切だということです。万一、密偵なんかのあった場合を思いましてね」と、彼…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP361-P384

かいに腹を立てるもんだから。きみは近頃、なんだか大変おこりっぽくなりましたね。だから、ぼくも訪問を避けるようにしてたんですよ。しかし、けっして違背はされまいと、信じきってはいましたがね」 「ぼくはきみが嫌いでたまらないんですよ。けれど、信じ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP337-P360

よ。ところが、それがかえっていけないんです。読者は依然としておめでたいんですから、賢明なる人士は彼らに衝動を与えてやるべきじゃありませんか。それだのに、あなたは……いや、しかし、もうたくさんです、失礼しました。これを根に持って怒らないように…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP313-P336

す値打ちはない。ところが、この時、一つのいまいましい事件が起こった。人の話によると、彼もそれに係り合っていたとのことである。そうして、またこの出来事はわたしの記録から、どうしても逸することができないのである。 ある朝、いまいましく、醜い、冒…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP289-P312

ど、その花々しい政治的活動も、あまねく知れわたっていた。ところが、こんど急にニコライが、K伯爵令嬢の一人と婚約したという噂を、疑う余地もない事実のように世間でいい出した。そのくせ、こういう噂の起こった正確な動機は、だれひとり説明ができなかっ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP265-P288

り過ぎると、彼女は両手をわなわなと顫わせながら差し上げた。と、まるでものに驚いた子供のように、ふいにわっと泣き出した。もうちょっと棄てておいたら、彼女は大声にわめき出したかもしれぬ。しかし、客はわれに返った。一瞬にして、彼の顔つきは一変し…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP241-P264

いのキリーロフの胸に、毒を注ぎ込んでいたのです……きみはあの男の心に虚偽と讒誣とを植えつけて、理知を狂わしてしまったのです……まあ、行って、今のあの男の様子をご覧なさい。あれがきみの創造物です……もっとも、きみはもう見たんでしょうね」 「ぼくは断…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP217-P240

だか気味が悪くなってきましたよ。しかし、明日あなたがどんなふうにして、顔出しをされるだろうかと、それを楽しんでるんですよ。きっと、いろんなことを準備してらっしゃるでしょう。ときに、あなたはぼくに腹を立てちゃいませんね、ぼくがこんな口のきき…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP193-P216

リーザの世話を焼きながら、自分でもその傍へ並んで腰をかけた。ちょうどからだの明いたピョートルはすぐさまそのほうへ飛んで行って、早口に面白そうにしゃべり出した。この時ニコライは例のゆったりした足どりで、とうとうダーリヤの傍へ近寄った。ダーシ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP169-P192

て、だれでもそれに記入することができるって……」 大尉は急に言葉を切った。彼は何か困難な仕事でもした後のように、重々しく息をついていた。この慈善会云々は、やっぱりリプーチンの仕組んだ筋書によって、あらかじめ用意して来たものらしい。彼はまたいっ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP145-P168

た。「シャートフ、おい兄弟![#ここから2字下げ] われは来りぬ汝《な》がもとに 日の昇りしを告げんため もーゆーるがごときかがやきの 木々に……慄うを語るため わが目ざめしを(こん畜生!)小枝の下に わが目ーざーめしを語るため [#ここで字下げ終…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP121-P144

は真実を直視することを恐れないからね……リプーチンはさっき、バリケードでニコラスを防げとすすめたが、あれは馬鹿なのだ、リプーチンは。女というやつは、最も透徹した眼光すら欺くからね。もちろん、le bon Dieu(かの善良なる神様)は女を造るとき、相手…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP097-P120

「きみの話があんまり意外なもんだから……」とスチェパン氏はへどもどした調子でいった。「わたしはどうも本当にならんよ……」 「まあ、待ってください、待ってください」と、まるで相手の言葉も耳に入らないようなふうで、リプーチンはさえぎった。「まあ、こ…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP073-P096

僅か五千ルーブリくらいしか彼の懐ろに入らなかった。そのわけは、ときどきクラブで大きな負け勝負をすることがあっても、その尻拭いをヴァルヴァーラ夫人に頼むのが恐ろしかったからで。こういうことをしまいにすっかり嗅ぎつけた時、ヴァルヴァーラ夫人は…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP049-P072

なった。知事は優しい、感じやすい人であったから、非常にばつの悪い思いをした。しかし、ここに面白いことは、ああいう処置を取った以上、彼もニコライが完全な判断力を持っているにもせよ、どんな気ちがいじみたことをやりだすかわからない人間だ、と考え…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP025-P048

もう見わけもなにもつかないくらいなありさまにして、浅ましくほうり出しているのを、通りすがりにふと見つけたような時、いったいどんな憂愁と憤懣に胸を掻きむしられることか! なんの、なんの! われわれの時代はこんなふうじゃなかった、われわれの努力…

『ドストエーフスキイ全集9 悪霊 上』(1970年、米川正夫による翻訳、筑摩書房)のP005-P024

悪霊 Бесы ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)曠野《あらの》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)二|節《せつ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0…