『カラマーゾフの兄弟』第12篇
三千ルーブリなどという大金を、生れて初めて見たのであります(私はとくにこのことを彼にただしてみました)。ああ、嫉妬ぶかい野心のさかんな人間に、決して大金を見せるものではありません。ところが、彼は初めてそのまとまった大金を見たのであります。…
決を下して、いやが上にその声を挑発し、ますます高まりつつあるその憎悪を受くるなからんことを!………」 一言につくすと、イッポリートは非常に熱してはいたけれど、十分|感動的《パセチック》に論を結ぶことができた。実際、彼が聴衆に与えた印象はすばら…
しょう。 「ところで、聴明な人たちはこう言うかもしれません、――だが、もし二人がぐるだったらどうする? もし二人が共謀で殺して、金を山分けにしたらどうだろう? 「そうです、これは実際、重大な疑問です。第一に、さしあたりその疑念を証拠だてる有力な…
たことであります。つまり、もはやこれ以上要求しない、父親との遺産争いはこの六千ルーブリでけりをつける、とこういう意味の書面が残っています。そのとき彼は初めて、高尚な性格と立派な教養をもった、一人の年若い処女に出くわしたのです。ああ、私はこ…
とがあります!………これは証拠の書面です……手紙です……手にとってすぐ読んで下さい、はやく!……これはその悪党の、それ、その男の手紙です!」と彼女はミーチャを指さした。「お父さんを殺したのは、あの男です。あなた方も今すぐおわかりになります。あの男が…
の席から叫んだ。 何といってもこの小さな逸話は、傍聴人にある快い印象を与えた。しかし、ミーチャにとって最も有別な効果を生み出したのは、カチェリーナである。が、このことはあとで述べよう。それに、全体としてa` de'charge(被告に有利な)証人、すな…
男連はむしろ検事と、有名なフェチュコーヴィッチとの論争に興味を惹かれていた。たとえフェチュコーヴィッチのような天才でも、こうした絶望的な手のつけようもない事件は、どうすることもできないだろうに、と驚異の念をいだきながら、彼の奮闘ぶりに一歩…
第十二篇 誤れる裁判 第一 運命の日 筆者《わたし》の書いた事件の翌日午前十時、当町の地方裁判所が開廷され、ドミートリイ・カラマーゾフの公判が始まった。 前もってしっかり念をおしておく。法廷で起った出来事を、残らず諸君に物語ることは、とうてい不…