京都アニメーション放火殺人事件(京都市伏見区放火殺人事件、2019年07月18日)の資料収集の会

(元・オウム真理教事件・資料収集および独立検証の会、できるかぎり同時進行)

岐部哲也・東京地裁判決(要旨・1995年10月12日・竹崎博允裁判長)

【岐部哲也被告に対する判決要旨】
 本件は、判示のとおり、教団幹部の被告人が、幹部の早川紀代秀を始め部下の信者三名と共謀の上、深夜、都心のビル内の駐車場に侵入したというものであるが、その目的は、警察の捜査に備え教団の保有する小銃部品を隠匿するためという著しく反社会性の強いものである上、その態様も、他の教団幹部らと連携し、それぞれ部下の信者らに命じて部品を運搬した上、自動車扉内等へ隠匿し、さらにその間見張りを立てて入居者らの立ち入りを阻止するなど計画的、組織的な犯行と認められ、同ビルの入居者はもとより、社会にも大きな不安を与えた重大な事案である。
 被告人は、捜査段階においては、本件の具体的な事実関係についての一切の供述を拒否しており、その詳細は必ずしも明らかではないが、共犯者らの供述および被告人の当公判廷での供述によれば、被告人は、早川から銃器部品の運搬を依頼され、かねてから教団内部で銃器の製造が行われていたことを知りながら、これを了解し、上位者の命令を絶対のものと考えている部下の●●に運転を命じて、二日間にわたり上九一色村への運搬を行おうとしたものであり、また、犯行現場においても積み替え作業を指示するなど、早川とともに本件犯行の中心的役割を果たしたことが認められ、その責任は他の共犯者らに比して格段に重いものがある。
 被告人は、当公判廷では、事実についておおむね率直に供述し、上申書では、本件犯行により(ビルの)入居者らに対し不安感を与えたことを謝罪し、部下の●●を犯行に巻き込んだことを後悔するとともに、今後、教団を脱会した上、信者らに対し教団の問題を説明していきたいと述べるなど、ある程度反省の態度も窺われるが、その内容は多分に抽象的、観念的であり、これらを通じても、教団幹部としてそもそもなぜ本件犯行に及んだのかその理由は明らかではなく、自己の行為の社会的責任を十分に認識しているか疑問なしとしない。
 前記のとおりの本件事案の重大性および被告人の果たした役割に照らせば、被告人に対しては実刑をもって臨むほかなく、これまで特段の前科、前歴もなく、父親が今後の監督を約束していることなど被告人のために酌むべき事情を考慮し、主文のとおり量刑する。

 

 底本:『オウム法廷1上』(1998年、降幡賢一朝日新聞社