『カラマーゾフの兄弟』第2篇
へ地主のマクシーモフが現われた。彼は一行に遅れまいと、息を切らせながら駆けつけたのである。ラキーチンとアリョーシャは、彼が走って来る様子を目撃した。彼は恐ろしく気をいらって、まだイヴァンの左足がのっかっている踏段へ、もう我慢しきれないで片…
ない正直な人間である、と固く信じて疑わない、これが彼に友情をよせているアリョーシャを悩ませたものである。しかし、これはアリョーシャばかりでなく、誰一人として仕方のないことであった。 ラキーチンは軽い身分であるから、食事に招待されるわけにはい…
うはっきりと言いきるの?」アリョーシャは眉をひそめながら、突然つっけんどんにこう言った。 「じゃ、なぜ君は今そういって訊きながら、僕の返事を恐れてるんだい? つまり、僕の言ったことが本当だってことを承認してるようなもんじゃないか。」 「君はイ…
想念を押しこたえることができなかった。それほど自分で自分の思いに心をひしがれたのである。彼は径の両側につらなる、幾百年かへた松の並木をじっと見つめた。その径は大して長いものでなく、僅か五百歩ばかりにすぎなかった。この時刻に誰とも出くわすは…
ほどの値うちもないと考えたわけでしょう。あの『じごく』はこういうえらい女ですよ!」 「恥しいことだ!」と、突然ヨシフが口をすべらした。 「恥しい、そして穢わしいことだ!」しじゅう無言でいたカルガーノフが突然真っ赤になって、子供らしい声を顫わ…
「まるきりふざけたのではない、それは本当じゃ。この思想はまだあなたの心内で決しられてないので、あなたを悩まし通しておるのじゃ。しかし、悩めるものも時には絶望のあまり、自分の絶望を慰みとすることがある。あなたも今のところ、絶望のあまりに雑誌…
だまだ遠いように思われることも、神の定めによればもう実現の間際にあって、つい戸の外に控えておるかもしれませんじゃ、おお、これこそ、まことにしかあらせたまえ、アーメン、アーメン!」 「アーメン、アーメン!」とパイーシイはうやうやしくおごそかに…
リスト教発生後二三世紀の間、キリスト教は単に教会として地上に出現していました。そして、実際、教会にすぎなかったのです。ところか、ローマという異教国がキリスト教国となる望みを起した時、必然の結果として次のような事実が生じました。ほかでもない…
ことと信じますじゃ。よしや幸福にまで至らぬとしても、いつでも自分はよい道に立っておるということを覚えておって、その道から踏みはずさぬようにされたがよい。何より大切なのは偽りを避けることじゃ、あらゆる種類の偽りを避けることじゃ、あらゆる種類…
た。短い謎のような手紙にざっと目を通して見たが、ぜひとも来てくれという依頼のほか、まるで説明がなかった。 「ああ、それはあなたとして、ほんとうに美しい立派なことよ」とふいに|Lise《リーズ》は活気づいてこう叫んだ。「だって、あたし、お母さんに…
息子さんの名前を過去帳へ書き込んで、お寺さまへ持って行ってお経を上げておもらい、そうしたら息子さんの魂が悩みだして、手紙をよこすようになります、これは確かなことで、何遍も試したことがあるんだによって。こうスチェパニーダさんがおっしゃるけれ…
自分のほうへ押し寄せる女房たちを祝福し始めた。と一人の『|憑かれた女《クリクーシカ》』が両手を取って突き出された。彼女は長老を見るか見ないかに、何やら愚かしい叫び声を立ててしゃっくりをしながら、子供の驚風のように全身をがたがた顫わせ始めた…
「神聖なる長老さま、どうかおっしゃって下さいまし、わたくしがあんまり元気すぎるために、腹を立てはなさいませんか?」肘椅子の腕木に両手をかけて、返答次第でこの中から飛び出すぞというような身構えをしながら、フョードルはふいにこう叫んだ。 「お願…
すわらした。二人の僧は両側に、――一人は戸の傍に、いま一人は窓の傍に座を占めた。神学生とアリョーシャと、それからいま一人の聴法者は立ったままであった。庵室ぜんたいは非常に狭く、何だか、だらけたような工合であった。椅子テーブルその他の道具は粗…
ということなしに一同に向って、自分はトゥラ県の地主マクシーモフであると名乗りを上げると、さっそく一行の相談に口を入れるのであった。 「長老ゾシマさまは庵室に暮しておいでなされます。僧院から四百歩ばかりの庵室に閉じ籠っておられます。木立を越す…
ャに強い印象を与えたらしい。長兄ドミートリイのほうとは、同腹の兄イヴァンよりもずっと早く、また深く、知り合うことができた。(そのくせ、長兄のほうが遅れて帰って来たのである)。僕は兄イヴァンの性質《ひととなり》を知ることに非常な興味をいだい…