ドストエフスキー短編
る。 しかし、居残ったもう一人のヴラス、つまり誘惑者のほうはどうなったか? 伝説は彼が憫悔のためにはって行ったとは語っていない。彼については何事をも伝えていない。あるいは彼もはって行ったのかもしれない。が、あるいは村に残って、今でも事もなく…
苦しんだのだ。おお、おれはすぐにその時でさえ悟ったのだが、多くの点について、おれはぜんぜん彼らを理解できそうもないと思った。現代のロシヤ人であり、ペテルブルグの進歩主義者であるおれにとっては、たとえば、彼らがあれだけ多くのことを知りながら…
おかしな人間の夢 ――空想的な物語―― 1 おれはおかしな人間だ。やつらはおれをいま気ちがいだといっている。もしおれが依然として旧のごとく、やつらにとっておかしな人間でなくなったとすれば、これは、位があがったというものだ。だが、もうおれは今さら怒…
ろが、朝になると…… 朝になると※[#疑問符感嘆符、1-8-77] 気ちがい、この朝は、今日のことではないか、まださっき、ついさっきのことではないか! よく聞いて、思いをいたしてもらいたい。さきほど(これは昨日の発作の後のことである)、わたしたちがサ…
った」のである。夜中に彼女は譫言《うわごと》をいいだし、翌朝になって、悪性の熱病とわかった。彼女は六週間、床についてしまった。 第 2 章 1 傲慢の夢 ルケリヤはたった今、このままわたしのところに住みつこうと思わない、奥さんの葬式がすんだら、…
創らざるを得なかったのだ、――だが、実際、わたしはなんだって自分をそしっているのか! システムは真摯なものであった。いや、まあ、聞いてもらおう、人を裁くなら、事柄を知ったうえで裁くべきだ……そこで、聞いてもらおう。 さて、どんなふうに始めたもの…
作家の日記十一月おとなしい女 ――空想的な物語―― 著者より わたしはまずもって読者諸君に、今度、いつもの形式をとった『日記』の代わりに、一編の小説のみを供することについて、お許しを願わねばならぬこととなった。しかしながら、事実一か月の大部分、わ…
初恋 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)馥郁《ふくいく》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)|謎々遊び《シャラード》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指…
鰐 ――パッサージュにおける突拍子もない出来事―― フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)鸚哥《いんこ》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)|わたしの最愛の《マイン・アラアリ…
いやな話 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)男子《おのこ》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)万事|式《しき》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数…
プロハルチン氏 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)朔日《ついたち》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)毎月|朔日《ついたち》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の…
ポルズンコフ フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)糧《かて》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) …
[#6字下げ]2 その翌晩、イタリア劇場の出し物は何かのオペラであった。イヴァン・アンドレーイチは、まるで爆弾のように客席へ飛び込んだ。彼が音楽に対してこれほどのfurore 即ち情熱を示したことは、いまだかつてその例がないのであった。少なくとも…
人妻と寝台の下の夫 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)彼女《あれ》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)今夜|仮面舞踏会《マスカラード》[#]:入力者注 主に外字の説明…
正直な泥棒 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)戸外《おもて》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)たまに|きゃべつ汁《シチイ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の…
クリスマスと結婚式 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)降誕祭樹《ヨルカ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のペ…
きみも苦労性だね。どうしたわけか、すっかり隠さずに話してくれないか。ただあれだけのことで、そんなになるなんて……」 ヴァーシャはひしと彼に身を寄せたまま、何一つ口がきけなかった。息がつまったのである。 「たくさんだよ。ヴァーシャ、たくさんだよ…
弱い心 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)母娘《おやこ》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数) (…
九通の手紙に盛られた小説 フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)三《み》[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページ…
たんだ! もういってしまったことは取り返しがつきゃしない! そうじゃありませんか? さあ、そこで、今あなたは何もかも知ってしまわれました。で、それが話の出発点になるのです。さて、それでよしと! もう何もかもけっこうです、まあ、聞いてください。…
二度と返らぬ過去に調子を合わせて、現在を築き上げるのが好きなんです。こうし、て、よく必要もなければ目的もなく、影のように侘しくもの悲しげに、ペテルブルグの街々や横町をさ迷い歩くのです。その思い出のすばらしいこと! たとえば、ちょうど一年まえ…
白夜 感傷的ロマン ――空想家の追憶より―― フョードル・ドストエーフスキイ 米川正夫訳 - 【テキスト中に現れる記号について】《》:ルビ (例)石島《カーメンヌイ》|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号 (例)贋|紙幣《さつ》[#]:入力者注 主…
やまったくあり得べからざるもののように思われてきたのだ。いったい、まあいったい、黄金時代は瀬戸物の茶碗の模様よりほかには、存在しないのであろうか? 閣下、黄金時代[#「黄金時代」に傍点]という言葉を聞いて、そう顔をしかめないでください。誓っ…