2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧
「神聖なる長老さま、どうかおっしゃって下さいまし、わたくしがあんまり元気すぎるために、腹を立てはなさいませんか?」肘椅子の腕木に両手をかけて、返答次第でこの中から飛び出すぞというような身構えをしながら、フョードルはふいにこう叫んだ。 「お願…
いては、もう一ことも言わないことにする。僕はわざと論題をせばめたのだ。僕は南京虫みたいなやつだから、何のために一切がこんなふうになってるのか、少しも理解することができないのを、深い屈辱の念をもって、つくづくと痛感している。つまり、人間自身…
すわらした。二人の僧は両側に、――一人は戸の傍に、いま一人は窓の傍に座を占めた。神学生とアリョーシャと、それからいま一人の聴法者は立ったままであった。庵室ぜんたいは非常に狭く、何だか、だらけたような工合であった。椅子テーブルその他の道具は粗…
ってしまえばいいんだ。話のついでだが、あのひとは今どうしてるね? 僕が帰ったあとでどうなったい?」 アリョーシャはヒステリイの話をして、彼女は今もまだ人事不省におちいって、譫言を言っていることだろうとつけたした。 「ホフラコーヴァが嘘をついた…
ということなしに一同に向って、自分はトゥラ県の地主マクシーモフであると名乗りを上げると、さっそく一行の相談に口を入れるのであった。 「長老ゾシマさまは庵室に暮しておいでなされます。僧院から四百歩ばかりの庵室に閉じ籠っておられます。木立を越す…
「そりゃ、アレクセイさん、そのとおりですよ、その一年半の間に、あなたとリースは幾千度となく喧嘩したり、別れたりなさることでしょうよ。けれど、わたしは喩えようもないほど不仕合せでございます。それはみんなばかばかしいことには相違ありませんが、…
客分についての理解。 国民が独創性を独占しているわけではないが、客分が独創性を独占しているわけではない。独創性は、単純な個人(さすがにそんな仮定はされていないはずだが)のみで可能ではなく、ある条件のもとでのみ可能である。 おどろくべきことに…
以下、朝日新聞社に出したもののみを示します。 わたしは、京都アニメーション放火殺人事件に関心をもつ一般人です。 朝日新聞社の2020年5月27日から6月6日までの関連記事を読み、あまりに無内容なことにおどろきました。 実行犯Aについて、取材が十分可能…
ャに強い印象を与えたらしい。長兄ドミートリイのほうとは、同腹の兄イヴァンよりもずっと早く、また深く、知り合うことができた。(そのくせ、長兄のほうが遅れて帰って来たのである)。僕は兄イヴァンの性質《ひととなり》を知ることに非常な興味をいだい…
した声でこう囁いた。もう言葉は少しも途切れなかった。 「手品ですって?」 「ええ、手品、ちょっとした手品なんで」と言う二等大尉の声は、依然として囁くようであった。彼は口を左のほうへねじ曲げ、左の目を細めながら、まるで吸いつけられたようにアリ…
の僧院で長老に逢ったのである。 それは前に述べたように長老ゾシマである。ここでわが国の僧院における長老とは何ぞや、ということについて一言説明を要するけれど、残念ながら筆者はこの方面において、あまり確かな資格がないような気がする。とはいえ、ち…
あなたにお礼をして下さりましょう』と仔細らしい調子で言った。『何といったってお前は阿呆だよ!』夫人は行きしなにこう叫んだ。フョードルは事件ぜんたいを照り合せて考えた後、なかなか結構なことだと思っだので、将軍夫人の手もとで子供を養育する件に…
誠に実に爾曹に告げん、一粒の麦もし地に落ちて死なずば唯一つにてあらん。もし死なば多くの実を結ぶべし (ヨハネ伝第十二章二十四節)著者より 余は自分の主人公アレクセイ・フョードロヴィッチ・カラマーゾフの伝記に着手するに当って、一種の疑惑に陥っ…
『ああ、そうだ、僕はここを聞き落した。聞き落したくなかったんだがなあ。僕はここのところが大好きだ。これはガリラヤのカナだ、はじめての奇蹟だ……ああ、この奇蹟、本当に何という優しい奇蹟だろう。キリストは初めて奇蹟を行う時にあたって、人間の悲し…
『カラマーゾフの兄弟』第6篇から第13篇まで、電子化をおえた。だいたい50日かかった。
よ」と彼女はまた薄笑いを浮べた。「でも、やはりあんたが腹を立てたろうと思って、心配でたまらないわ。」 「おや、本当だ、」突然、ラキーチンが心《しん》から驚いた様子で、こう口を入れた。「ねえ、アリョーシャ、本当にこの人は君を恐れてるぜ、君のよ…
ごとくこの理想一つを目ざして突進しないわけにゆかなかった。それゆえ、ときどきその他の一切を忘れてしまうことさえあった(後に自分で気がついたことであるが、彼は前日あれほどまで心配した兄ドミートリイのことを、この苦しい一日の間すっかり忘れてい…
教は、鎮魂祭がすむと、すぐ読誦を始めた。パイーシイ主教は、一日一晩読み通すつもりであったけれど、今のところ庵室取締りとともどもに、だいぶ忙しそうな様子であった。それは、僧院の同宿の間にも、僧院付属の宿泊所や町うちから押し寄せた人々の間にも…